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神のみ・サンデーの感想ブログ。こっちはまじめ。
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神のみぞ知るセカイを人生の主軸、少年サンデーとアニメを人生の原動力としている人。
絵やSSもたまに書きますが、これは人生の潤滑油です。つまり、よくスベる。

ご意見・ご要望があれば studiotrefle0510☆gmail.com の方まで、☆を@に変換してお気軽にどうぞ。
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つぶやいてます。

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ルキノさんとの合同神のみSS・鳥羽瑠乃シリーズの10話(最終話)です。ついに瑠乃の攻略も終了……するのでしょうか!これまで付き合ってくださった方には本当に感謝の気持ちを告げつつ、ぜひ最終話も読んでいただきたいと思います。(これ以前の話数はこちらからどうぞ)

少女は街を歩く。
どこかにあるはずの「世界」を探して。
空を駆けて見た、あの青く綺麗な球体を探して。
少女は街を歩く。
背中から赤い血が滲んで、それが彼女の足跡を辿っていく。
少女は探す。世界を。自分の見つけたいものを。
足をすり減らして。
羽を失って。
血を流して。
それを。

誰が不幸と呼べるだろうか。







「ね、音々―――」
瑠乃は朦朧とした意識の中で、自分を抱えた少女の姿を確認する。忘れもしない、鈴鹿音々……彼女だ。
瑠乃の体を抱えて、音々は涙を流していた。そして瑠乃を強く抱きしめる。瑠乃の温もりが音々に伝わり、音々の温もりが瑠乃に伝わる。そこには世界だの思いだのが入り込む余地はなく、少女二人、ただそれだけが存在していた。
「瑠乃、ごめんね」
音々は泣きながらそう伝える。偽りのない、それが鈴鹿音々の思いの全てであった。
私は何もわかっていなかった。
「ごめんね……!」
「なんで、泣くの」
瑠乃は眉をひそめて音々の頬を触った。手袋越しに音々の涙を拭って、初めて見た彼女の泣き顔に困惑する。
「なんで泣くの」
瑠乃は再びそう言った。それは音々に対する問いではなく、自分自身への詰問だったのかもしれない。鳥羽瑠乃は今、胸の奥になにか得体の知れない温かさを感じていた。
懐かしい。
人を拒絶していたときには決して手に入らなかったものが、そこにはあった。
「……私は」
音々は瑠乃を見つめた。こうしてまじまじと顔を見るのは本当に久しぶりだけれど、それでも、瑠乃は昔と変わっていなかった。そんな単純なことにいま気づく。
「私は、瑠乃を守りたかった」
音々の視線は瑠乃を離さない。
「瑠乃が好きだったから……私はあなたを守りたかった。あなたが傷ついてほしくなかった。それなのに、私はあなたを傷つけた」
今回起きた二人のケンカの原因となった、音々による瑠乃の生き方の否定。
「ごめんね、瑠乃……ごめんね……!」
鈴鹿音々は、それについて瑠乃に謝りたかった。謝らなければいけなかった。瑠乃を守りたいという気持ちが空回りして、瑠乃を傷つけていたとすれば。
ごめんね……。

瑠乃はそんな音々を抱き返した。
「ううん……私もカッとなってた、かも。泣かないで」
「許してくれるの……?」
「許すもなにも」

鈴鹿音々は、ずっと自分を守ってくれていた。
でも、そんな自分が少し恥ずかしかった。だからがんばってきた―――けれど。
私には……
私には、やっぱり音々が……


「いい雰囲気の中を邪魔するけど」
瑠乃と音々、二人が黙って見つめ合って互いのことを思って、まるでそのままエンディングが流れ出しそうな展開を壊したのは、桂馬だ。
「音々、もうコンサートの時間だ。早くしないと遅れるぞ」
桂馬のその言葉を聞いて、音々はハッとしたように腕時計を確認する。確かに準備はもう始まっていた。
「る、瑠乃、私」
「私は大丈夫だから、行って、音々」
瑠乃と音々はゆっくりと体を離した。そして何か会話をしているらしいが、桂馬の耳には届かない。代わりに、羽衣で気配を消して後ろに隠れていたエルシィが桂馬に話しかける。
「神さま、なんでいいところだったのに邪魔するんですかー! あのまま駆け魂が出そうだったのにー!」
「……出るわけないだろ」
桂馬はため息をついたが、エルシィはそれを意外そうな反応で返す。
「え、でも、二人が仲直りしたじゃないですか!」
「エンディングはそこにはない……鈴鹿音々の隣にいる鳥羽瑠乃ではなく、鳥羽瑠乃を鳥羽瑠乃として見なければ、な。彼女のスキマは、そこにある」
「じゃあ、どうすれば……?」
「見えてるさ」
桂馬は再び指でメガネを直した。瑠乃と音々を見つめて思う―――これはエンディングではない、と。
「トゥルーエンドは、既にな」





音々が会場に向かった後、コンサートホールの裏手にある非常用階段に残ったのは桂馬と瑠乃だけだった。エルシィとハクア、天理も羽衣に隠れながら隅で待機をしているが、干渉はしない。
再び二人で向かい合う。
瑠乃は目線を強めて桂馬を見つめた。怒っているようにも見えるが、盲目だった瑠乃から手を離したのだから当然なことかもしれない。
しかし。
そうではなかった。
「これ、あなたが全部企てたことなの?」
「…………そうだと言ったら?」
桂馬はちゃかすようにそう返答する。瑠乃は怒ってなどいなかったようで、真意を探すようにして桂馬に接してきた。
「驚く。あなた、すごいのね……落とし神さまみたい」
「桂馬、って呼んでくれないんだな。さっきは呼んでくれていたのに」
「……! そ、それは、さっきは気が動転していたからであって」
瑠乃は顔を赤くして視線を逸らした。桂馬はそんな瑠乃に目線を向け、一歩、一歩と歩いていく。
「もう一度聞くよ」
そして、彼女に手を伸ばした。
「二次元の扉を開けるつもりはないか?」
「…………」
「…………」
桂馬は真剣な表情で、その手を少しずつ瑠乃に近づける。瑠乃はその手に向けて手を伸ばそうとして―――手を開いて、桂馬の顔につきたてた。

「ないわ」

瑠乃は何か、気の迷いが晴れたような清清しい顔でそう答えた。声も張りがあって、それは決意の言葉に聞こえた。
「…………………………………………………そうか」
桂馬はゆっくり瞳を閉じる。
「私は」
それを見て瑠乃は、その決意を絞り出すかのようにして喋りだした。
「私はずっと、この世界に負けないように生きてきた。ゴスロリ服を着て、ゲームをして、この世界から独立した存在として生き延びてきた。でも私、気づいたの。私には音々がいるって―――だから、これからは『ここ』で生きていく。音々と一緒なら、なんだってできるから」

「鳥羽……さん」
それを階段の端で羽衣に包まれつつ聞いていた天理は、感嘆の声を漏らした。鳥羽瑠乃の表情は今まで見たことのないような表情だったからだ。
「うう……いい話ですー」
「悔しいけど、さすが桂木ってことね」
同じ羽衣に包まれているエルシィとハクアも、それぞれの感想を述べながらそれを見つめていた。桂木桂馬の言っていたエンディングとは、まさにこのことなのだろうと――――思ったそのとき。
「待ってください、様子がおかしいです」
そう言ったのは天理に憑依したディアナだった。残りの三人も、言葉を止めて二人のほうを見る。


瑠乃の言葉に対して、桂馬は大きくため息を吐いて反応した。


「……結局お前はそうやって、逃げているだけなんだな」


「…………え?」
一瞬で。
瑠乃の思考が停止した。
「か、神さま!?」
隠れていたエルシィも、さすがにこれには動揺した。あわあわしているエルシィを尻目に、ハクアは羽衣を解放しようとする。
「な、なに言ってんのよあいつ、いきなり! 攻略するんじゃないの!?」
「ちょ、ちょっと……待って」
鎌を持ち、今すぐにでも首を刈り取ってやらんばかりに動こうとしたハクアを、天理が制止する。
「桂馬くんを、信じようよ」
「……これもきっと、あの人の作戦です」
ディアナもその行動を支持する。ハクアは奥歯をかみ締めながら、再び腰を下ろした。これで失敗なんかしたら承知しないんだからね、と羽衣越しに桂馬を睨む。
私だって信用してるんだから。
口に出さないままも、ハクアはそう強く願った。

「なにが……なにが逃げてるって言うの……?」
瑠乃の瞳から自信が消え去る。いや、これは怒りかもしれない。答えの見えなかった瑠乃への糾弾ではない、これは単なる瑠乃の否定だ。
桂馬はまったく動じずに返答する。
「君はそうやって、鈴鹿音々を利用して逃げているだけだと言ってるんだ。昔のままなんだよ、君は」
「昔のままで……なにが悪いっていうのよ!」
「悪いなんて言ってない。でも君はそれを認めなきゃいけない、自分が縋っていることを、自分が弱いということを」
「…………!」
瑠乃の指先が震える。何かを言葉に出そうとするのだが、それすら叶わない。絶句していた。言い返さないと、何かを言い返さないと、と思うたびに、彼女の額に汗が垂れた。
「そして君は、強くならなくちゃいけない。君自身で。瑠乃―――お前は音々とケンカしたとき、もう何も見えなくていいと願った。現実を拒否した。そしてそれが叶ったとき―――お前は結局、なにを選んだんだ?」
私が。
私が選んだものは……
「お前は視力が無くなって別の世界を選んだ。そしてその世界の扉が見えそうになったとき、ボクを頼った。そしてそのボクが消えたとき、お前は音々を欲して、視力を欲した。つまり、この世界を選んだんだ」
そこに。
そこにはなにも、ない。
「君は理想を求めていた。でもそれは『理想のため』じゃない、『自分が傷つかない』ただそれだけのために求めていたんだ、君は」
桂馬は瑠乃を否定する。
Deny。
「それでは君は、進めない。いつまでたっても進めない―――」
「そんなこと言ったって!」
瑠乃は耳を塞いだ。そして階段を駆け下りようとする。桂馬はそんな瑠乃の肩を掴んで、ぐいっと引っ張った。逃げることなど許されない。進むしかない。進むには、前を見るしかないのだから。
「君は歩いているとき、どこを見てる?ずっと隣の他人を見て、遠くの音々の姿を求めて……今のままではきっと君はそういう生き方しかできない。音々は自分の意思で君を守ると決めた。君はなにを決心したんだ。君は音々と一緒に生きることを決めた。それは『音々から守られること』を決心したんじゃないのか? それでどうやって進む、前に」
「うるさい!」
瑠乃は桂馬を拒絶した。さっきと同じだ。また耳を塞いでしゃがみ込む―――瑠乃は分かっているはずだ、もう音々は来ないと。
「立てよ」
桂馬の言葉が瑠乃を突き刺す。えげつない。見ていた誰もがそう思う言葉を、桂馬は何度も瑠乃に振り落としていた。
瑠乃はしゃがみ込んだまま、射抜くような視線で桂馬を見る。そして、震えた声で彼に向かって叫んだ。
「あ、あなたこそ! あなたこそ、逃げてるくせに! ずっとゲームして、現実を拒絶して生きてる……あなたも……桂馬も同じ……私は、桂馬がいたから……」
瑠乃は桂馬の両足をすがるように掴む。そして涙を流しながら、そこに泣きついた。
「桂馬が私を認めてくれれば、私は……!」
桂馬はその手を振り解いた。
そして黙って階段を登っていく。瑠乃もふらふらになりながらなんとか立ち上がって、それを追おうとする、が、うまく歩けない。手すりにつかまって、桂馬の後ろ姿を目で追った。
「ボクは君を認めない」
桂馬が階段を登りながら答える。
「瑠乃、お前はボクと同じかと思っていた。でも、違っていたのかもしれない。君がゲームをしながら見ていたのは結局、こちらの世界だったんだ」
「あなたは」
瑠乃は声を振り絞る。
「あなたは違うっていうの?」
階段の最上段で、桂馬は歩みを止めた。何段登っただろうか……かなりの高さがある。
「ボクは違う」
そこで桂馬は宣言した。
「現実で辛いことや苦しいことがあって、そこから逃げようとゲームをしたりなんかしない。ボクの世界はそこにあるから。ボクの想いはそこにあるから。ボクは今日もボタンを押す……けどそれは自分のためでも、現実の安寧のためでもない。そこにヒロインがいてルートがあって、エンディングがあるからだ。君はゲームがなければ進んでいけない。でも」
そこで桂馬は宣言した。
高らかに。


「ボクは、ゲームがあるから、進んでいける」


ただそれだけ。



「どうして」


瑠乃はゆっくりと階段を登りながら、桂馬に問う。
「どうして、そんなに強いの」




強くなんかない。
ただそうあるだけなんだ。
なぜなら。
「ボクは、神だから」


「か……み……?」
瑠乃が目を見開いて、その言葉を反芻する。桂馬はそれを見て指を鳴らした。
「エルシィ!」
「は、はい~神さま!」
桂馬の合図を見て、エルシィが階段最上段にいる桂馬の隣に飛んできた。そして困惑したように、桂馬に確認をとる。
「本当にいいんですか、にーさま!」
「いいからやれ!」
「うう、はい~!」
言って、エルシィは羽衣を練りだした。それは大きな風呂敷のように大量の物体をくるんでいて、いまにもはちきれんばかりに膨らんでいる。状況を理解しきれていない瑠乃の前で、エルシィはそれを解放した。


バラ。
バラバラッ。
エルシィの作り出した巨大風呂敷包みの内側から、少しずつ何かがあふれ出してきた。それは階段を転がって、瑠乃のもとに行き着く。
幾つも。
星の瞳のジュリエット
その文字が、見えた。瑠乃はそれにとっさに反応するが、手に取る前にどんどん階段から転げ落ちていく。

バラ。
バラバラッ。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


エルシィの持つ羽衣から流れ出しているもの。
それは全て、おびただしい数のゲームソフトだった。

バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ



もはや洪水のようにそれは流れ、どんどん階段を下ってくる。階段を登っていた瑠乃の足に幾つもゲームソフトが当たり、どんどん下に流れていく。痛いと思っている間にも、無数のゲームが。

「瑠乃!」
なにが起きているのか理解しきれていない瑠乃に対して叫び声をあげたのは、最上段でその様子を見ている桂馬だった。
「ボクは、落とし神だ!」
瑠乃は桂馬を見つめた。
落とし神。
その名が自分の心臓を掴んだからだ。
「落とし神が攻略したゲームは5473本、通常版限定版をそれぞれカウントすれば総計12054本だ! これがその証明だ、数えてみろ、全部ある!」
「か、数えろって……!」
そんなことを言っている間にも、ゲームはどんどん流れては去っていく。手すりを掴んでいなければ、足を取られてそのまま階段の最下段まで落ちていってしまうのではないか―――いや間違いなく落ちる。完全にそれは洪水だった。
「ボクは、神だ! だからこそここで宣言する! 現実なんてクソゲーだ! だからこそボクは、現実のためなんかにゲームはしない! ゲームをしたいからゲームをする! 現実のために、逃げ場所としてゲームをする君にクソゲー呼ばわりされるゲームなんて、この世のどこにも存在しないんだよ! 鳥羽瑠乃、君はボクと違う、だからここで『さよなら』だ! 神ゲーにでも埋もれてろ!」

バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


瑠乃は歩くのをやめようとした。こんな勢いのゲームの中ではもう歩くことなどできない。ヘタをして流されたら大惨事だ。どんどん体に当たって痛いし、音で何も聞こえないし、ここで手すりに掴まって落ちつくのを待っていればいい。そう思っていた。
さよならだ。
桂木桂馬のその言葉を聞くまでは、ずっと。


バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


「桂馬……行っちゃ、やだぁ!」
瑠乃は叫んだ。
そして、手すりから手を離す―――流れの中を、歩み出した。


バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


「私は……ずっと!」
転がってくる無数のゲームが足に当たり、転びそうになるがなんとかそれを堪える。そうこうしているうちに、なにをしているのかも分からなくなってきた。足だけでなく、落ちて跳ねたゲームも体に当たる。パッケージから飛び出たディスクも顔に向かって飛んでくる。痛い。分からない。それでも瑠乃は階段を登った。

「私はずっと、思ってた……! どうして、こんなことになったんだろうって……でも今日、分かったの! 私、私……ずっと逃げてた!」

桂馬は最上段で、ゲームに埋もれながらももがく瑠乃を見つめていた。隣ではエルシィが、未だ終わらないゲームの放出を続けている。


バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ

「逃げたくないって思ってた、でも、嫌だった……逃げていたかった……だって、そうしないと……」

バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ

そうしないと。


「そうしないと、桂馬が――――――――いなくなっちゃう気がしてたから!」


桂馬。
いなくならないでよ。
ずっとそばにいてよ。
またゲームを買いに行こうよ。
私、弱くてもいい。
逃げててもいい。
桂馬と一緒にいたいから。


「けいまぁ―――――――!」

桂馬はそんな瑠乃を見つめた。そして、小さく……微笑んだ。
それでいい。

もう瑠乃は、弱くなんてない。
逃げてもいない。
それでいい。



「瑠乃!」
桂馬は叫んだ。声がかき消されないように。瑠乃に、彼女にきちんと届くように。
「越えてこい!」
過去も。
トラウマも。
弱い自分も。
現実も。
全部。




瑠乃の鳥篭は壊した。もう自由になれている。
けれど、その羽根でまた空を飛べるとは限らない。
それを。

誰が不幸と呼べるだろうか。


瑠乃に翼はない。それで現実を歩いていかなきゃいけない。翼がなければ、洪水に流されることもあるだろう。それでも。
それだからこそ。
自分で抗って、歩かなければいけないのだ。
桂木桂馬も。
鈴鹿音々も関係なく。
鳥羽瑠乃の力で。


「瑠乃―――――――――! 来い、こっちに、来い―――――――――!」



エルシィから流れ出すゲームが、そのときちょうど止まる。出し切ったのだ。流れが止まり、一気に静かになる。桂馬からもエルシィからも、鳥羽瑠乃の姿は見えない。眼前に積もった無数のゲームしか見えなかった。


バラ。
バラバラッ。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ

そんな中で、再びゲームの山が少しずつ流れ出した。

バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ


そして。
桂馬の目の前に、山の中から手が伸びてくる。


「けいまぁ!」

無数のゲームをかき分けて。
彼女、鳥羽瑠乃は、ここまでたどり着いたのだ。


瑠乃は桂馬に飛びついて、彼の体をぎゅっと抱きしめた。涙を目に浮かべながら、頬を染めて―――桂馬を見つめる。
「桂馬……私、怖かった。桂馬が消えちゃうことが。桂馬がずっといてくれるのなら私、弱いままでいいと思ってた。音々と桂馬に助けてもらって生きていけばいいって、思ってた」
でも、と。
瑠乃は言葉を続けた。
「私、強くなるよ。もう逃げないで立ち向かっていく……だから桂馬、私と――――」
「ダメだ」
桂馬は瑠乃の言葉を止めた。瑠乃は再び不安そうな顔になる。
どうして。
「瑠乃は一人で歩いていける。隣には音々だっている。だったら君には、神なんていらないだろ」
瑠乃は首を横に振った。
「そうじゃない……私が隣にいてほしいのは、桂馬なんだよ……!」
神ではなく。
桂木桂馬が。
桂馬は瑠乃を見つめて、少し寂しげに言った。
「君も、ボクを忘れたほうがいい……。君の道は、こっちじゃないから」
瑠乃は何か引き止めるような言葉を言おうとしたが、やめた。桂馬の瞳には覚悟の色が満ちていた。瑠乃のゲーム経験がここにきて少し生きる。これはもう、ルートを変えることは不可能だ、と。
でも、これだけは聞きたかった。
「寂しく……ないの?」
「不幸じゃない」
桂馬は答えをはぐらかした。
そして瑠乃の肩をつかんで、少しずつ顔を近づけていく。
瑠乃は言った。
「私、飛んでいくから。いつかきっと、桂馬のところまで」
「……………」
桂馬は瑠乃を見つめた。
瑠乃は桂馬を見つめた。
君はボクを忘れたほうがいい―――再びそう言うべきだったのかもしれない。でも桂馬はそう言わなかった。ゆっくりと、小さく、返答する。

「待ってる。ずっと待ってる―――」
桂馬と瑠乃の唇が、静かに重なった。
瑠乃の体から駆け魂が抜け出し、記憶が四散する。
空と君の間に。
空と君の間に、これからもずっと辛いことは現れ続けるだろう。そして自分はそれに干渉することはできない。彼女が一人で戦わなければいけない。そして彼女の瞳の裏に、自分の姿がないとしても。


それを。
誰が不幸と呼べるだろうか。
ボクは神だ。
だからきっと―――これでいい。




コンサートホールに、綺麗な音色が響いていた。
壇上に上がり一人で演奏しているのは、鈴鹿音々。髪型服装化粧の影響か、これまでとは全く雰囲気の違った彼女を見て桂馬は少し驚いていた。そんな桂馬の前を、申し訳なさそうに一人の少女が横切った。どうやら、自分の買ったチケットの席を探しているらしい。
その少女はなんとか自分の席を見つけ、座ろうとする―――が、そこには隣の席に座っている少年の私物が置いてあった。ゲーム機だ。少女は慌てふためきながらも、演奏が終わる前に座りたい、その一心で少年に話しかけた。
「あ、あ、あ、あ…………あの…………」
「……はい?」
「こ、これ、えっと、私の席なので、どか、どかしてもらえません……か……?」
「あーすいません、どうぞ」
少年はあっさりと荷物を席から動かした。少女は安堵の息を吐いて、ゆっくりとそこに座った。
ま。
男嫌いが治りきっていないにしては、上出来か。
桂馬はPFPをポケットにしまいながらそう感じる。



ヴァイオリンの音色がホールいっぱいに響く。
この曲が終わるまでは。
一緒にいよう、瑠乃。



世界を探していく中で、羽根をもがれた少女はいつか、大切なものを見つけるだろう。それは探していた「世界」かもしれない。それとも別の何かかもしれない。そんなことはきっと、たいした問題ではないのだろう。
世界はそれでも動き続ける。
少女はそれでも歩き続ける。
だからきっと―――これでいい。

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