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神のみ・サンデーの感想ブログ。こっちはまじめ。
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神のみぞ知るセカイを人生の主軸、少年サンデーとアニメを人生の原動力としている人。
絵やSSもたまに書きますが、これは人生の潤滑油です。つまり、よくスベる。

ご意見・ご要望があれば studiotrefle0510☆gmail.com の方まで、☆を@に変換してお気軽にどうぞ。
鮎川天理さんからの求婚もお待ちしています。
つぶやいてます。

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※神のみぞ知るセカイの二次創作のSSです。天理とディアナがメインとなったストーリーですが、多少原作との差異があり、その他のキャラにおいても個人のイメージで補われた性格設定が存在します。また、かなりつたない文章なので読みにくいかもしれません。それでもOKという人は、お気軽にどうぞ!(これ以前の話数、あとがきはこちら

五年前。
私は一つの経験をした。
めまぐるしく変わる状況に取り残されていた私の手を、迷うことなくとってくれたあの少年のことが、今でも頭の中に残っていて―――私はそれをずっと見上げていた。
小さく狭い私の世界の中で、あの日のことは全ての中心だったと思う。もちろんそれは今でも同じで、「桂木桂馬」……彼のことを忘れることはできなかった。そしてこれからも、忘れることはないのだと思う。何かの確証があるわけではないけれど、私はそう信じていたかった。
でも。
いつか、忘れてしまうのかもしれない。五年前のあの日のことが、いつか消えてしまうのかもしれない。私はそれが何よりも怖かった。好きとか嫌いとか……そういうことではなくて、ただ「過去が過ぎ去ってしまうこと」が怖くて、必死でそれを掴もうとして、大きな箱の中に厳重にしまっておいたのだ。
いま私は、その箱を開けようとしていた。
どうなっているのかは分からない。進化しているかもしれない。変化しているかもしれない。退化しているかもしれない。
箱の中には、何もないかもしれない。
でも私は決めたのだ、箱を開けると―――もし箱の中身が空っぽだとしたら、そう考えるだけでも怖いけれど……そうだとすれば私は、中に入れたい新しいものを探しに行きたいと思う。この世界のどこかに隠れているそれを。

もし、
箱の中身があったとすれば。

私はそれに手を伸ばそう。
そして今度は、しっかりと自分の胸で抱えているんだ。
いつか私の過去に、「つづきの話」ができたときのために。




 
-------------------------------------------------------------------------


-五位堂 結(ごいどう ゆい)-
12歳。現・五位堂家「お嬢様」。


私は借りたハンカチで、もう一度しっかり涙をぬぐう。
覚悟はできた――たとえ怖くても、私の思いを確かめるために。今はまだ立ち止まってはいられない。
……と、思う。
「天理がそう思えるようになることを、私も五年間待ってましたよ」
私がやる気を出したことに感動したのか、ディアナもホロリと涙を流していた。水面に反射しているから、もしかしたら気のせいかもしれない。
ともあれ、私はそのベンチの前に並んで立っている二人へ、ハンカチを含めてお礼を言おうとする。
「……あのー、ありがとうございます、もう大丈夫……です」
「突然泣き出すから、びっくりしたじゃない」
ツインテールの女の子は、そんな私の隣に座って話しかけてくる。確かに、他の人から見れば何事かと思うかもしれない……ましてや、数時間前に一つ騒動を起こしているんだし。ま、周りの人から見られたりしてたかなぁ……私は恥ずかしくて顔が紅潮する。
「美生様」
すると、私にハンカチを渡してくれた女の子が、もう一人の女の子に話しかけた。みおちゃん……というみたい。
「なに?結」
「美生様……優しいんですね。そんなに心配してるなんて」
「なっ!」
すると、ツインテールの女の子はボッと顔を赤くした。「は、はい!?」と口をぱくぱくとさせて、目を左右に泳がせている。
……心配してくれてたんだね。
(そのようですね)

「そんなわけないでしょ!」
その子は地団太を踏んで怒るけれど、相手の女の子はニコニコと笑っているだけだった。怒っている女の子と一瞬目が合って、私はどんな表情をしようか悩んだ挙句に……同じように、ニッコリと笑った。
それを見ると、その子は眉をより強張らせて、細い腕を胸の前で組む。よく見る「女の子が威張っているポーズ」で、私はちょっと驚いた。

似合ってる……。

「ま、まあ。お前がそう思いたいなら思ってもいいけど」
そう言って、その子は私の横に再び座った。
私は、もう一人の女の子へと目を向ける。その子は隣の子とは違った印象で、二人とも「お嬢様みたい」な点では同じ雰囲気だけれど、それ以外では対極な場所にいるかのような二人だなぁ……と思うような外見だった。隣の子は髪の毛も明るい色でツインテール、服もフリフリのついた短いスカートなのに対して、その子は淡い色の着物を着込んでいて。髪の毛も色も緑がかった黒……ということで、まさに畳の部屋にいそうなお嬢様だ、と強く感じる。
「っていうか、結」
「……なんでしょう?」
「その『美生様』って呼び方、やめてって言ってるでしょ!同い年なんだし、様づけはちょっと……せめて『さん』、とか」
「さん……ですか」
ツインテールの子からの注意をうけると、着物の子は両手の手のひらを合わせて唇に触れさせて、天井を見つめた。少しの間何も言わずに考え込んで、やがて小さく口を開いた。
「……青山さん」
「遠くなってる!」
言って、その子は肩を落とす。
「遠慮してるの?結、お前は我が弱すぎるのよ」
「それは……私(わたくし)も感じてます……。でも、お母様には逆らえませんし」
「ふん―――そんなんじゃ、いつまでたっても強くなんかなれないわよ!いつまでも甘えてなんかいられない……私なんて、もうパパがいなくたって一人で寝れるんだから」

「…………」
かわいい……。
(威張って言うことではないような気がしますが)
そんなこと言っちゃだめだよ、人それぞれなんだから。
(でしたら天理、あなたも、たまに私が先に寝たときに不安になって一度起こすのはやめてください)
…………。
……別に、不安にはなってないもん……。

ツインテールの女の子は、どうだ、という顔のまま話を続けた。
「私はあの青山中央産業の娘なんだから、何だって一人でできるわ。小学校を卒業したときに、パパと約束したんだから……何があっても青山家の誇りを忘れないって」
そう言うその子の瞳はまっすぐで、どこか高みを見つめていた……たぶん、自分のパパを見ているのだと思う。尊敬、憧れ……それは私と似たものなのかもしれいけれど、その目は少し違っていたかもしれない。私よりもしっかりとしていて、強固で、そしてまっすぐだった。
危なっかしいくらいに。
着物の子は、その話を聞いてパチパチ、と小さく手を叩いた。
「さすが美生様です!かっこいいですよ」
つられて、私も拍手をする。確かにすごい……私も桂馬くんと会う覚悟を決めたところだけれど、このみおちゃんにはもっと強いもの……自分のプライドというものが、心の真ん中にそびえたっているのだと思う。自分への自信。私はそんなにないし、ディアナがいなかったらきっともっと弱くなっていたと思う。
(私は褒め上手ですから)
けなし上手でもあるよね。
「……は、拍手なんて大げさよ!私にとってはこんなこと、まっすぐ歩くことより容易いんだから。もう中学生にもなるのに、ママーパパーなんて言ってられないしね!」
――すごい、立派な子だよ。
(天理も見習ってほしいものです。志の時点で差異がありますから、これからはもっと高く目標を掲げましょう)

「ところで、美生様」
「なに、結?なんでも聞いていいわよ」
「お父様にも頼らないとおっしゃってましたけど……」
「そうね」
「でも美生様は、まだお父様とお風呂に入ってらっしゃるとお聞きしましたが」
「ぶー!」
お風呂……?
(かわいらしいですね)

ツインテールの女の子は、座っていたソファからずるーっとすべり落ちた。顔を床に向けて誰とも目をあわせないまま、腕をわなわなと震わせて聞き返す。
「な、な、なぜ……それを……」
「美生様のお父様から聞きました」
「パパのバカー!」
(お父様と一緒にお風呂、ですか。天理は一緒に入ってませんよね)
……あ、当たり前だよ。恥ずかしいもん……。
「い、言っておくけど!」
落ち込んでいた女の子は、力を振り絞ってなんとかもう一度立ち上がった。顔を真っ赤にしていて、着物を着た女の子もそれを見て微笑んでいる。
「それは……私がパパに甘えてるわけじゃないんだから!別に一人で入るのが寂しいとかじゃなくて、その……わ、私がパパと入りたいから一緒に入ってるだけなのよ!?」
それは……。
(余計に恥ずかしいような気がしますが)
「さすがです、美生様」
「う、うん、すごいよ」
私が着物の子に合わせてそういうと、ツインテールの子はむーっと怒った。
「お、お前たち二人して私をバカにして……なによなによなによー!パパに言いつけてやるんだから!」
そう言って、その子はソファの上に再び座った。しかも今度は、両足を組んで。さっきの腕組み以上に似合っていると思う。
ツインテールの子は頬を膨らませて眉をひそめていたけれど、本気で怒っている感じではなかったので私は安心する。着物の子も気にしている……かと思ったら。
「ごめんなさい、美生様」
「そんなにっこりしながら謝るヤツがいるかー!おちょくってるでしょ、結!」
……そうでもないらしい。
(仲がいいんですね)
そうかもね。確かにこの二人が並んでいると、視界が派手になったように感じてとてもバランスがよかった。
「……ところで、お前」
「えっ!?な、なに?」
私は、ツインテールの子に話しかけられて一瞬驚く。緊張した面持ちでその子の方を向くと、唇を尖らせたまま私に質問をしてきた。
「なんでこんなところで泣いてたのよ」

……あ。

そういえば、そうだった。すっかり自分の中では解決した気でいたけれど、それが原因で心配をかけちゃってたんだから、説明しないと。
えーと。
どこから説明すればいいんだろう……桂馬くんの話はするべきかな。
(いりますか、それ?)
そうかな。じゃあ、簡潔に……。


「お金がないんですか……?」
私が事情を説明すると、着物の子は心配そうに私を見つめた。私は両手を振って、特に心配事はないことを強調する。
そう。
ただ―――私の願いが叶わなくなるだけだから。
「じゃあなに、家には帰れるんでしょ?」
「う、うん。それは大丈夫」
「……だったら泣くことないじゃない」
「そう、だね」
確かに大げさだったかもしれなかった。でも、私の胸の中にはまだ残っている―――桂馬くんに会いたい、と。
それが、まだ、強く。
「でも、美生様。その方が困っているのなら助けてあげませんか……?」
そう言ったのは着物の子だった。私はえっと驚く。さっきハンカチを返したときも明るく笑ってくれていたし、すごく優しい人に違いない。
(そうは言っても天理、これは今までと違って『お金』の問題です。軽々しく借りたりしてはいけませんよ)
……そうだよ、ね。
「あ、あの、大丈夫です」
「でも、泣いておりましたよね。私が言うのもなんですが……やっぱり、我慢はいけないと思います」
「我慢、ね。言ってくれるわね、結。それはどっちかと言うと意地でしょ」
「だったらなおさらです。美生様、力を貸してあげてください。ここから鳴沢駅までなら、それほど大きなお金ではありません」
え、えと、その。
私は別に。
「結が貸せばいいじゃない」
「それが、先ほど行った音楽店でほとんど使ってしまって……」
「あぁ、あそこ?そういえば結、なんか長いスティックみたいの買ってたわよね。……あれ、ドラム用でしょ?」
「はい、お店で見たバンドの映像がすごくて、つい」
「なんでドラムのスティックなのよ!確かに私もそれ見てたけど、ギターとか歌を歌ってる人にあこがれるものじゃないの、フツー」

そう言われると、着物の女の子は持っていた手提げから少し飛び出たスティックを撫でた。そして、少し憂いを含めたような笑顔を作って―――
それを見て、私は驚く。
暗い笑顔に見えた。そのスティックを通して、どこかのもう一人の自分を見ているかのように思えたから。
「私は」
そして、その子は口を開く。
「ドラムって、すごいと思いました。お稽古でやっている和太鼓と違って……自分の力の限りに叩いているような気がします。全力で、一見するとデタラメで……でも、バンドの皆さんを引っ張っているんです。いろんなものに縛られている私と違って、自由でした。周りの目を気にせずに我武者羅に叩いていても『美しい』と感じさせることができていて。私、見たとたんに憧れてしまいました」
「自由……」
ツインテールの女の子は、それを聞くと着物の女の子の瞳を見つめた。しかも、怪訝そうに。何の気なしにつぶやいたあと、息を吐いて足を組みなおす。
「……ま、お前のママって厳しいもんね」
「この方も、私と同じです。この方の望むことをさせたいと思っています……美生様も協力してくれませんか?」
「…………」
(天理)
すると、ディアナが私に話しかけてきた。
(私も、天理の望みを叶えたいです。どうせ意地を張るなら、ふてぶてしく張りましょう)
ふてぶてしく。
私の中で意識すらしたことのないその言葉が、胸の中を回りだした。たとえ迷惑をかけてもそれでも越えたいもの。他の人にとっては珍しくないものだとしても、私にとっては滅多に出てこないものだと思う。
それが今は―――容易に出てくる。逃したくはなかった。
「あの」
そして、私はツインテールの女の子に声をかける。
「お願いします……もしよかったら、貸してくれませんか」
怖くても、目をそらしたりはしない。
「行きたいんです」


「…………」
その子は、少し驚いたような顔で私を見つめた。
……でも、多分私よりは驚いていないと思う。
「美生様、私からもお願いします」
着物を着た女の子がぺこりと頭を下げたのを見て、私も慌てて同じようにお願いをする。ふてぶてしくていい。
チャンスを逃したりはしたくなかったから。
「…………はぁ」
女の子はため息をついて、バッグを胸の前で抱えた。そしてそれを探り、やがて中から一枚の紙を取り出す。
見覚えのある紙だった。
それは―――千円札。
「しょうがないわね」
「美生様……!」
「ま、まあ、庶民が困っていたらそれを助けるのも、社長令嬢の役目だからね!……それに」
ツインテールの子は、今までひそめていた眉を初めて緩くして、小さくはにかんだ。
「それに、パパだったらきっとこうするわ」
そう言って、その子は私の胸にそのお金を押し当てた。
私はどうしようか少し迷ったけれど、そのお金を自分で手に取る。
(天理、お礼です)
「あっ……あの、ありがとうございます」
「お、お礼はいいわよ……。それに、会いたいと思ったときに会っておいたほうがいいもの。いつでもその人に会えるわけじゃないんだし……いつかいなくなっちゃうかもしれないでしょ?遠くに引っ越しちゃうとか。……そういうときに、私のせいで後悔されたらなんかヤじゃない!」

後悔なんて……しないよ。
私はもらったお金を、強く、強く握り締めた。もう離さない―――離してはいけない。
すると、ホームの中に電子音が響いた。電車の到着を知らせる音だと思う。
「もしかして、鳴沢市行きではありません……?」
着物の女の子が、電子掲示板を眺めてそうつぶやいた。スケジュールと時計を照らし合わせると、確かにそうかもしれない。
その確認をしている間に、私は背中を強くはたかれる。
「なにやってんのよ、早く行きなさい!会いに行くんでしょー!?」
「は、はい」
「私たちも、お二人の再会を楽しみにしていますから……がんばってくださいね」
「は、はい」
(天理、行くなら早く行きましょう)
三人にせかされて、私はベンチから立ち上がる。もう一度強くお金を握り締めて、深々と頭を下げた。
ありがとうございます。
絶対、絶対忘れませんから――――!

「えっと……借りたお金はどうやって返せば」
「い、いーわよ!自慢じゃないけど、私も結もいっぱい持ってるし」
「……私はほとんどお母様が管理してますけど……」
「お小遣い少ないんだっけ?……とにかく、そのお金はあげる。応援資金よ」
応援資金?
「がんばってください、とおっしゃればいいんじゃないでしょうか、美生様」
「うっ……が、がんばりなさい」
(素直じゃないですね)
「あはは……」
私は苦笑いする。そして、もう一度頭を下げてから、角を曲がった先にある切符売り場へと走り出した。
最後に、精一杯の感謝を伝える。
「あり、ありがとうございまし、た!」
たどたどしい私の感謝が伝わったのか、着物の子はにっこりと笑って頭を下げた。
ツインテールの子は、手をメガホンの形にして叫ぶ。
「大事に使いなさいよね!それ、パパが稼いだ大事なお金なんだからーっ!!」
それを聞いて、私は後ろを振り向くのをやめた。大事に大事にお金を握り締めて、電車に乗り遅れないように、

想いのたぎりに乗り遅れないように、
覚悟を決めて、走り出す。


-------------------------------------------------------------------------




-桂木桂馬(かつらぎ けいま)-
12歳。鮎川天理の「幼なじみ」。


電車の外の景色がめまぐるしく変わっていく。見えていたものが一瞬で通り過ぎて、また新しいものが現れて、通過する。
私はそれに振り落とされないように、手すりを握ってしっかりと立った。
「そろそろですね」
私はもう一度窓の外を見る。そこには舞島市よりも、もっと広く大きな建物が並んでいる町並みがあった。
鳴沢市。
ついにここまで来てしまった。

やがて電車は鳴沢駅に到着して、私も雑踏にまみれながら駅を出る。鳴沢駅も新舞島駅に負けないくらいの大きさだったけれど、私は特にミスをすることなく駅から出ることができた。多分、これからは一人でも電車に乗れる……と思う。

鳴沢駅の出口はそのまま「なるさわでんでんシティ」という商店街につながっていて、もう夕方の時間帯なのに人々も多かった。学校帰りの学生、晩ご飯の材料を探すお母さん、それ以外にもいろんな人が道を行きかっていて、私は少し戸惑いそうになる。
「天理、怖気づくことはありませんよ。私もいますし……早めに桂木桂馬を探し出しましょう」
そうだった、戸惑ってなんていられないよね。
私は手ににじんだ汗をスカートの裾で拭いて、鳴沢市の詮索を始めた。

桂馬くんはママさんとお買い物に来ているんだから、ショッピングモールにいる可能性が高い……と私はディアナと相談して決定し、この辺りで一番大きいであろうショッピングモール「イナズマート」で桂馬くんを探し始めた。広いけど、歩いて探すしかない……よね。
「しらみつぶしに探しましょう」



それから私とディアナは、イナズマートの中をとにかく探した。食品売り場、書店、雑貨屋、フードコート。
でも―――桂馬くんはいなかった。




かれこれ、ここに来てからもう一時間以上が経過しようとしている。歩き疲れた私は休憩もかねてトイレに入って、鏡の前に立った。
いない、ね。桂馬くん。
「そうですね……」
……このお店にいると決まっているわけじゃないから、別のところも探してみないと。
そう思っていても。
時間はどんどん過ぎていっていて、そんなに長くいられないことも分かっていた。帰る時間も考えれば、あと三十分もいられない計算で……私は焦りながらも、どうすればいいか分からずにいた。
桂馬くんに会いたい。会って私の思いを確かめたい。なのに。
またどこかの誰かに阻まれている。私は悔しかった。
やっぱり私は、無力なのかな?

「……否定はしません」
……え。
ディアナは、はっきりとそう言った。
「『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』ということわざがありますが、天理はその言葉がぴったりなくらい美しいです。けれど、神様ではありませんから……天理が無力なのは当然です」
当然。
―――その言葉が、私の胸に突き刺さった。くらり、と眩暈がして倒れこみそうになる。
「ですが」
それでも、ディアナは言葉を続けた。
「無力だからといって、どこかの神様から不幸にされるいわれなんてないはずです。知ってますか?私も神の一角なんですよ。私に力があれば絶対に天理を助けます。ここまでがんばって、勇気を振り絞って歩いてきたんですから。神である私が保証します、天理は今日、絶対に絶対に絶対に桂木桂馬に会えます!無力であろうとどれだけ小さかろうと、その人が求めている幸せの価値は変わらないはずです。もっと自信を持ってください、天理。自分自身でもなく、行動そのものでもなく、あなたの『思い』を―――信じてください!」
…………!
倒れそうになった私は、なんとか体勢を立て直した。ディアナの言葉に答えることはできないままだけれど、そのままもう一度鏡に向き合う。
前髪が視界に入ってきた。……長い。
「天理の本当の思いが五年前と変わっていたとしても、誰も天理を責めたりはしませんよ。間違った認識をいつまでもずるずると引きずっている方がいけない、と私は思います。でも天理はそれに決着をつけようとしている……いったいどうやって、あなたを責めればいいというんですか?まだ時間はあります、探しましょう、最後まで!」
ディアナは鏡に反射して、そう言った。


怖い。
確かに、その思いはある。
桂馬くんのことを自分が好きでいなくなっていたとすれば、それはとても恐ろしいことで。嫌なことで。
でも、逃げたくはないことで。
私は鏡の向こうのディアナの目をじっと見つめる。
怖い。
嫌だ。
逃げたくない。
知らなければいけない。
義務と意思。
どちらを尊重すればいいかなんて分からなくて、どちらを尊重したいかなんて分からなくて。
難しいことは、やっぱり私には分からなくて。

だから。

私は鏡に手を伸ばした。同時にディアナも鏡へと手を伸ばして、私とディアナの両手がぴったりと重なった。
また、ディアナに助けられてしまったね。
「ありがとう」
そうつぶやいて、私はもう一度鏡に向き合った。
覚悟とか真実とかそういうものは置いておく。私の本当の思いとかも、置いておく。
難しいことはやめよう?
「それでいいんです、天理」

そして、私はトイレから出て再び店内を探し始めた。
細かいことはいらない……ただ、私の思いを信じて走り出す。

「桂馬くんに、会いたい」

単純すぎる―――その思いひとつで。




私は走った。走り続けた。
周りの人の目も、体の疲れも気にならないまま、ずっと、ずっと走り続けた。
そして……一つの場所で立ち止まる。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
私はそこで息を切らしていた。少ししてやっと息切れがなくなると、回りに目を走らせる。
そこはショッピングモールの一階の中心部分で、幾つもの看板と、東西南北四つの方向それぞれにエスカレーターが設置されていた。ここはきっと、イナズマートのどこからも近い場所のはず。

私は二階に続く四つのエスカレーターを見つめた。
そして、何の気もなしに一つのエスカレーターを選ぶ。
緩やかな足場の動きにあわせて上に乗ると、意思の通っていない無機質な音が聞こえて……そのままゆっくり上に上がっていく。

少しずつ。

少しずつ。

少しずつ―――エスカレーターの終わり、その向こう側に立っている人影が、見え始めた。

人影が近づいてくる。

過去が近づいてくる。

現在へ近づいてくる。

私の心拍数がどんどん上がっていくのが分かった。

細胞のひとつひとつが沸騰しているかのようで。

まるでセカイの中心が今ここにあるかのような―――恥ずかしい錯覚にも陥った。

背中が見える。

ずっと追い求めていた、一人の背中が。
「天理」
ディアナが私に声をかける。私は心の中でそれに返事をして、
そして。






邂逅した。






「――――――」
カチッ、
という音をたてて、止まっていた針が動き出したのを体で感じる。エスカレーターを上り終えたその先、吹き抜けになっている場所の手すりによりかかってゲームをしている少年。
間違いない。
間違えるはずがない。
桂馬くん、だ。

メガネをかけていたけれど、雰囲気は五年前と全く変わっていなかった。同年代のどの男の子よりも細い目つきで、ただ一心に画面を見つめている。瞳の色は澄んでいて、まるで綺麗な絵画を見ているかのようだった。痩身で凛としたその立ち姿は、どうしてか、とても世界から浮いて見えた。

まったくもって浸透していない。

違和の塊のような存在だった。

変わってない。
五年前から、ずっと―――。


「あれが、桂木桂馬……」
ディアナは驚嘆の声をもらした。きっと、私と同じことを感じているに違いない。彼はおかしい、と。
「人間」とは、違うベクトルの存在だと感じているはず。
「天理、行きましょう」
うん。
自分でも驚くぐらい、私の心は平静で……そのままゆっくりと桂馬くんに近づいていった。心拍数も落ち着いている。震えもなければ、手に汗もかいていなかった。
一歩、また一歩と近づいていくと、意外な人から声をかけられた。
「……誰だ、お前」
桂馬くんだった。
目線はゲームの画面に向いているけれど、近づいている私のことは気づいていたらしい。ぶっきらぼうな声で私に話しかけてくる。
「…………っ」
返事をしようとする……けれど、声がでない。果たして桂馬くんになにを言えばいいのか分からなかった。
分からないけれど、とにかく、喉の奥につまっている言葉を吐き出す。
「鮎川、天理です」
……言えた。
私はそれを確認して、なんとか息を吸う。呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息ができない。
でも、言えた。
「何の用だ?」
すると、桂馬くんはまたこちらを見ずに問いかけてくる。私はゆっくりと呼吸を整えて話す。まずは事実を、なりゆきを。

「私……会いにきたんだ……桂馬くんに。ずっと、会いたかった、から」
「会いたかった……?なんで」
「なんで……って、私、えと、その……桂馬くんの『幼なじみ』、だから。五年前のこと……覚えてる?」

「幼なじみ……?」

その言葉を聞くと、桂馬くんはゲームをやめてゆっくりと私の方を向いた。
目が合う。
その目はまるで射抜くように私を見つめて、つい体が硬直する。桂馬くんは動けない私に近づいて、目を細めて顔を覗き込んだ。
近い。
肌が触れ合いそうな距離まで近づいてきた桂馬くんに、私はもう対処し切れなかった。体の力が抜けて今にも崩れ落ちそうになるけれど、それをなんとか支える。
幼なじみという言葉に、興味を持ってくれた。
だとすれば――――



私が体に力を入れると、桂馬くんはすぐに近づかせていた顔を遠ざけた。
「フッ」
(フッ……?)
そして、鼻で笑った。

「アホか、お前は」

…………。
…………え?



「幼なじみ?もう一回聞くぞ、お・さ・な・な・じ・み?……お前、頭大丈夫か?幼なじみという存在が、ゲームの中でどれだけ重要なポジションにある言葉と知っての狼藉か、それは?まずお前はボクの幼なじみと言ったけど、本当にそうなのか?まさか同じ学校に通っていたから幼なじみとか言わないだろうな。幼なじみっていうのはもっと純真で研ぎ澄まされたものなんだよ。家が隣、とかな。もし家が隣だったとしても、今こうして再会……五年ぶりって言ったか?五年ぶりに再会しているのに、現にボクはお前のことを何一つ思い出せない。それってもう既に、幼なじみではないってことだよ。というかそもそも、どうして今このタイミングで自称幼なじみのお前が来る?今はそういうタイミングじゃないだろ!五年前ってことは小学一年生……そのころの幼なじみともし再会するなら、普通に考えて第三者の関与が必要だろうが!現実的に言うなら、親だな。親どうしが久々に交流をしてその流れで会うとか……そういうシチュエーションのお膳立てが無いとおかしい。そんなの幼なじみとは言われない。というか、幼なじみが再開する場所がどうして休日のショッピングモールなんだ?幼なじみ、なんの関係もないじゃないか。街中で会うなんて、生徒会長だろうと運動部の女子だろうと無口な文芸部員だろうと教師だろうと生き別れの姉だろうとできるだろ。まったくもって!幼なじみとしてのアドバンテージを生かせていない!そんな意味不明なことをする奴を幼なじみとは呼べないな!それ以前に、大前提として!五年じゃ短すぎるだろ!しかも小学一年の時に分かれた二人が、小学校卒業してすぐの頃に再開してどうする?全然変わってないだろ!これから中学、高校と進むに連れて義務教育も終わって、道が広がる!その中で奇跡的なめぐりあいをする二人……それこそが幼なじみだ!お前には幼馴染の要素が全くないし!そして!再開するならせめてあと五年……十年は必要なんだよ――――――――――っ!」



その時。




え。と思った。
私が一瞬まばたきをした瞬間に、私の体が沈んでいく感覚を覚えたからだ。まるでいきなり床がプールに変わったかのように。
自分の体と意識が分離したのだと思う。一種の幽体離脱のように、意識が体の一歩後ろに来ている。
目の前にいるはずの桂馬くんがどこか遠く感じて、私は戸惑ってしまう。
な、なに?
すると。
私の意識とは別に、私の体が急に動き始めた。まるで3Dのゲームをやっているかのように、視点が一気に回転している。

もしかして。
その瞬間、私は察した。
「入れ替わった」のだ。
「私」と「ディアナ」が。


体の中の私とディアナの意識がコンバートされている……きっとそうに違いない。そう本能に近いもので察した私は、ディアナが言っていたことを思い出した。
「私が天理の体を操ることもできるんですよ」と。
あれは本当だったんだ……。


体が入れ替わったディアナは、それからコンマ一秒も経たないうちに、左足を軸にしてフィギュアスケーターのように一回転をしようとしている。
ディアナは思いっきりの力を込めて、

桂馬くんを、蹴った。





「うっぐわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ディアナの全力の足技を直接受けた桂馬くんは、ものすごい悲鳴を上げて吹き飛ばされてしまった。吹き抜けの一番上にあるガラスをも突き抜けて一瞬で私たちの視界から消失してしまう。割れたガラスの向こうからかすかに聞こえるのは、どんどん遠くなっていく叫び声だった。

その勢いのまま、ディアナは空中でもう一回転をして、ゆっくりと着地をした。
すると、また意識が入れ替わるのが分かる。水の中から引っ張り出されるような感覚がして、なんともいえない不思議な感覚だった。
ディアナは鉄の手すりに反射して言う。
「……神罰です。決して、やりすぎたとは思ってはいませんから」
ディアナは恥ずかしそうな顔をして言った。私はつられてくすりと笑う。
「覚えて……なかったね」



「……天理?」

「でも、仕方ないよね。接点だって、五年前のあのときしかないし」
「…………」
「桂馬くんの言ってたことだって正しいよ。私にはきっと、桂馬くんの幼なじみでいる資格なんて、ないよ」
「天理」
「ごめんね、ディアナ。つきあわせちゃったのに、こんなことに……なって……」
「…………」
「ごめんね……ごめんね……私、わた、し、桂馬くんに……覚えてもらうこと……できなかった……っ、う、うっ……」
「…………」
「……っ、ぐすっ、……私、ふ、ふられちゃった……ね……」


私は―――泣いた。

悲しくて、悲しくて、悲しくて、泣いた。
拭いても拭いても、ぬぐってもぬぐっても、涙が溢れ出してくる。止まらなかった。
五年前の思い出。その全部がどっとこみ上げてくる。心も、においも、暗闇も、広がる海も、おかしな幽霊も、ディアナも。
私がずっと見てきた桂馬くんの背中も―――思い出す。

切り取り線だ。

ついさっき、切り取り線が印刷された。あとはこれに沿って切り取るだけでいい。そうしなければいけない。そうしないと、前には進めないから。
私はハサミの先端を、その切り取り線に当てようとして、
制止される。

「……待ってください」
ディアナは。
私の涙に反射して―――言った。


「リベンジしましょう」
…………っ、ぐすっ、
……りべん、じ?
「桂木桂馬は言っていました。せめて十年後に来い、と―――だったら、あと五年経って、シチュエーションもお膳立てすれば、もうあの男に文句を言われる筋合いはないはずです!……言っておきますが、これは過去への依存なんかではありませんよ。むしろ、進むんです。『過去を糧として』」

かこを、かてにして……。
「リベンジしましょう……!」
―――――――!


……ディアナのその言葉を聞いて、私は声をあげて泣いた。桂馬くんに会えば諦めがつく……その考えはすごく見当違いだったということに、いまさら私は気づいたのだ。
桂馬くんに会いたい、その気持ちは今、前よりもずっと強くなっている。
いや、むしろ、会いたいというものではないかもしれなかった。



桂馬くんが、好きだから。
たったそれだけの、かけがえのない、その思いが。



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-鮎川天理(あゆかわ てんり)-
17歳。


「……そういえば、そんな話もありましたねぇ」
ディアナは顔を赤くして、しらばっくれて言う。
……絶対覚えてたでしょ。忘れるわけないもん!
「どうだか」
私はそんなディアナを見て小さく笑った。あれから五年経って、もうディアナは自由に、しかも長時間私の体に憑依することも可能になっている。おかげで私はお腹がよく空くようになってしまったけれど、ディアナのいない生活なんてやっぱり考えられない。

あれから五年。

私の日常は、あの頃には絶対に想像できないものに変わっている。しかも、幾つもの奇跡が重なって。これがディアナの言っていた「神様」の力なのかもしれない……少なくとも、ディアナの言ったことに間違いはなかったと思う。ディアナがいなかったら絶対にこんな状況にはなっていないもんね……ありがとう、ディアナ。
「ど、どうしたんですか、急に?」
えへへ、なんでもないよ。
「……まあ、天理が楽しそうなら、私はそれで満足です」

そうしていると、机の上に置かれた私の携帯電話が鳴り出した。着信音から電話だと分かったので、あわてて出る。
相手は榛原さんだった。
「こら鮎川ー、さっさと来い!お前の家ー知らないんやから、早めに新舞島まで迎えに来てやー!」
それだけ言って、すぐに電話を切ってしまった。私はディアナと一緒に苦笑いをした後、荷物を持って家を出た。


「行ってきまーす」
ママにそう言って、玄関から外に出る。靴をしっかりと履いて歩き出そうとして、目の前に一人の姿が見えた。

「おお、天理」
「桂木さん?」
そこにいたのは桂馬くんだった。手にはタッパーを持っていて、私を見つけるとそれを手渡してくる。
「はい、これ」
「……なに、これ?」
「母さんの作ったきんぴらごぼうの、余り。おすそ分けしてこいってうるさくて……これ、お前の母親に渡しておいてくれ」
「え……そ、そんな、悪いよ!」
私は両手で手を振るけれど、それを気にせず桂馬くんは私にタッパーを差し出してきた。
「いーから早く受け取れ」
「あ……、ど、どうも」
そして、結局私はそれを受け取った。桂馬くんのママさんの料理はたびたび分けてもらっているけれど、いつ、どんな料理でもおいしい。
今回もごちそうになっちゃった。
「ありがとね、いつも」
「……ん?別に、そんな気を使う必要ないだろ、隣だし、」


桂馬くんは私を見つめて言った。
私も桂馬くんを見つめて聞いた。

「……それに、幼なじみだろ」



(……よく言ったものですね)
呆れるディアナに、私は小さく苦笑いをした。




-鮎川天理(あゆかわ てんり)-
17歳。桂木桂馬の「幼なじみ」。



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◆ 無題
SS制作お疲れ様でした。そして面白いお話をありがとうございました!!
最後まで綺麗にまとまってて読みやすかったです!キャラクターの挿絵もシンプルで良かったですよ。
ディアナがここまで肩入れするのも納得の天理ですね。とっても素敵な方です。
そんな本当に一途な天理に対して、桂馬は最低の反応でしたが、ああやっぱり…wと思ってしまうのはキャラが確立されてるからなんでしょうね。なお、吹っ飛ばされるところまで、やっぱりそうですよねー、ですw

とれふるさんの次回作に期待!!!
viper 2011/02/13(Sun)03:29:51 編集
◆ 無題
いいお話だった。特に美生と結の会話が楽しいです。でも天理はいつまでもディアナに心配かけったな…
saya URL 2011/04/29(Fri)22:00:59 編集
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