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神のみぞ知るセカイを人生の主軸、少年サンデーとアニメを人生の原動力としている人。
絵やSSもたまに書きますが、これは人生の潤滑油です。つまり、よくスベる。
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ルキノさんとの合同神のみSSの4話です!いつものとおり最後に分岐となる選択肢のアンケートを設置してありますので、セミの滅亡ボタンを押すよみのごとく(分かりづらい)ポチポチ押していってくださると嬉しいので、どうぞよろしくお願いします。
今回は自分が執筆するターンなので、そこはご容赦ください。それではどうぞ!
1
よし……種はまいた。
放課後、桂馬は早い時間に学校を出た。午前中すでに「落とし神として」瑠乃とは接触している。あとは、自分が「桂木桂馬として」会う。そのために向かうのは、ゲームショップだ。
帰宅ラッシュの中の電車に乗って、桂馬は鳴沢市を目指す。結局、エルシィは今回もいない。桂馬は学校を出る前、バンド練習に勤しむエルシィとした会話を思い出していた。
「神さま、私も練習が終わったら急いで行きますから!」
……今回はお前がいても役にはたたないかもな。
「でも、この前は私もしっかりと役に立っていたじゃないですかー!」
……役に立ったのはお前の持っている羽衣だ。
「その形を変えたのは私じゃないですかー!」
……形を変えろと指示したのはボクだ。
桂馬はまげを揺らして陽気に話しかけるエルシィに対して、心の中だけでツッコミを入れる。桂馬からしてみれば、エルシィなんぞとノホホンと話をしている場合ではないのだ。瑠乃の性格上、攻略の合間での好感度がガクンと落ちる可能性は非常に高い。一歩見誤るだけで一気にバッドエンド直入……なんてこともありえる。一昨日のミスは奇跡的に回避できたが、いつまでもそうは言ってられない。
結局、エルシィにはこれから向かう店の情報だけを伝えて別れた。
向かったのは、鳴沢市に存在するゲームショップ「オジマップ」……の裏に存在する、名前もないような小さなゲームショップだった。
桂馬は入り口のドアを開けて中に入る。店自体はかなりボロくて狭い作りだが、いたるところにゲームが敷き詰めてあって品揃えはよさそうだ。
狭い店内では、探していた人影がすぐに目に入る。
桂馬は彼女に気づいた。そしてもちろん、向こうからも。
「えっ、あ……」
「やあ、こんにちは」
店内で真剣にゲームを選んでいたのは、午前中に「落とし神として」接触をした桂馬にここに呼び寄された張本人、鳥羽瑠乃だ。
桂馬は薄く笑って挨拶をする。
「奇遇だね、また会うなんて」
「う、うん」
この前はこの前で平気に話していた瑠乃だったが、間が開いたからなのかまた少しよそよそしい態度に戻っている。
「……あなたも、ゲームを買いに来たの?」
「ああ。君も?」
「今日、落とし神さまから情報をもらったから……」
――――その返答はは予想通りだった。今日、サイトで流した極秘情報……この店で、レア物のギャルゲーが緊急入庫するという話。瑠乃からもらったメールの返信に、ひっそりと書いておいたのだ。
「星の瞳のジュリエット初回版A」
一度エルシィの失態で入手を逃したものの、その後桂馬の尽力で手に入れた激レアギャルゲーである。そんなゲームがなぜこんな小さいゲームショップにあるかと言えば、それは簡単。今日の開店と同時に、桂馬は自分が持っていたそのゲームをこの店に売りに来たのだ。学校にも遅刻したうえ貴重なゲームを失う、という涙なしにはできない行為だったが、確実に瑠乃を釣るにはこの方法しかなかった。案の定、その情報を聞いた瑠乃はこうしてゲームショップに駆けつけている。
「―――へえ、落とし神から。なんてゲーム?」
「星の瞳のジュリエット、の……初回版A。知ってる?」
「ああ、聞いたことはあるかもしれない。確かに、レア度は高かった気がするよ」
桂馬はわざとそっけない態度を取る。もし自分がここでその情報を初めて手に入れたとすれば、瑠乃の首筋をチョップして気を失わせてでも奪取するところだったが……今回はそんなことはできない。苦渋の選択ではあるが。
「意外だね、欲しがらないんだ」
「……ま、まあ、やったことあるからな」
「えっ、持ってるの?」
うっかり口を滑らせた。桂馬は口惜しさを一度体の外に放り投げて、攻略に集中する。
「通常版をな!」
桂馬が苦しげに取り繕うと、瑠乃は納得したような表情を見せる。
「あ、なるほど……初回版っていっても、そんなに違いはないもんね」
そんなに違いがない?
桂馬はその言葉に裏で目くじらを立てた。何を言ってる。OPムービーが違うし、コンプ後の音声特典も違う。特典ブックレットもパッケージも違う……大違いじゃないか!
これまでの瑠乃から落とし神あてへのメールでも感じてはいたが、瑠乃は意外とライトなゲーマーだ。まあ、落とし神と比べればどんなプレイヤーでも超ライトな存在になってしまうが……。
とにかく。攻略に集中しよう。
瑠乃はその後、にこにことしながら店の奥へと駆けていった。そして、中古コーナーにある目当てのゲームを手に取る。目を輝かせながら、パッケージを嬉しそうに眺めている。
それを見ながら、桂馬は次の行動を考える。せっかく放課後の時間に二人きりになれたんだ、ここで一気に攻略を進める。瑠乃も自分には中々に気を許しているようだし、このままイベントを積み重ねていけば……攻略はかなり進むに違いない。
桂馬は顎に手を当てながら情報を拾い集め、構築して、再び展開していく。染み出た液体のように、じわりじわりとその範囲を広げていって―――
ふと、瑠乃のほうを向いたそのとき。
「あ、『星の瞳のジュリエット』だ」
メガネをかけた小太りの男が、そのゲームを瑠乃の手から奪い取ったのだ。桂馬はそれを見て目を見開いたが、瑠乃はといえば、まるで手のひらの上に毛虫が這ったかのような反応を見せて、一瞬で手を引いた。
男は瑠乃を訝しげに眺めたが、すぐに無視してゲームのパッケージに目を移す。一万五千円という高額な値段には眉をひそめはしたものの、価値を理解したのか、それを老婆が座っているレジへと持っていこうとする。
(な、なんだ―――あの男!)
桂馬は怒りを覚えながら地団太を踏んだ。せっかく、せっかく自分が瑠乃と出会うきっかけを作るために涙をのんで売り出した「星の瞳のジュリエット初回版A」を……なんであんなわけの分からない男に渡さなければいけないのか!
桂馬は瑠乃の背中を睨み、早く取り返せ、と念じる。しかしよく考えてみれば、それは到底無理な相談だった……鳥羽瑠乃は、極度の男性恐怖症なのだから。そして、ふと一つの発想が浮かぶ。もしこのままあの男にゲームを買っていかれれば、ある意味、より有益な攻略状況になるかもしれない。
マイナスな気分になった瑠乃をうまくフォローできれば……!
と、思ってはみたのだが。
そうはいっても、我慢できない状況もあるのだ。
このときばかりは、桂馬も攻略のその後など頭から消し飛んでいた。心の中にあるのはただ、あのゲームを渡すものかという強い意志である。
「おい婆さん、これくれ」
そう言って、男がレジにそのゲームを差し出そうとした手を。
桂馬は掴んで、制止した。
「なんだ、お前」
当然のごとく、男は桂馬をきつく睨みつけた。
しかし、桂馬も退かない。早く星の瞳のジュリエット初回版Aから手を離せ。
「そのゲームは、あいつが持ってたやつだろ」
言って、桂馬は瑠乃を指差した。男もそちらを見つめ、瑠乃の体がビクッと震えるのが見える。
「他人が見てたゲームを奪うな。あいつに返せ」
そう言われた男は大きく舌打ちをした。ガラの悪い男だな、と思うが、桂馬にとってはパセリ程度にしか見えていない。
「うるせーぞ、クソガキ! お前のその理屈なら、今お前が俺に文句言ってくんのもおかしいだろうが!」
そして、店内に響くような声で叫んだ。桂馬は動じないが、瑠乃は慌てて桂馬の服の裾を指でつかむ。そして、小さく引っ張った。
「あ、あなた……やめて。もう、いいから」
「よくない!」
桂馬は瑠乃に向けて強く言う。そうだ、この初回版Aを手に入れるのに、自分がどれだけ苦労したと思っているのだ。落とし神としての情報網とコネを使い、やっとの思いで手に入れたものなのである。それをこんなたまたま居合わせたような奴に手に入れられるなど、絶対に絶対に許せない。
「こんな奴に渡す必要は、ない!」
「ああん!?」
さすがにその言葉は頭にきたのか、ついに男は顔を真っ赤にして本気で怒った。そして、右手で桂馬の頬を思いっきり殴る。
「うわっ!」
体重がありそうな男なだけあって、パンチの威力はかなり強かった。それでもハクアの地獄鎌攻撃とくらべれば三分の一くらいの程度の威力だが、桂馬は床に倒れこむ。
そして、男が持っていたゲームも。
ガシャン、とパッケージごと床に落ちた。
嫌な音がして、桂馬は頬の痛みも気にせずそのゲームに近寄る。取り上げて見てみると、案の定……パッケージには、見事に亀裂が入っていた。
(う、う、う、うわあああああああああああああああああ!)
桂馬は心の中で思いっきり涙を流した。パッケージに描かれている「星の瞳のジュリエット」のヒロインであるジュリアンヌが、まるで瓦割りをされたかのように上から下へ真っ二つに引き裂かれていた。これは酷い。桂馬は体中から暗黒のオーラを吹き出して、泣いた。
「げっ、割れちまったじゃん……!」
そんなゲームを見て、男は不機嫌そうな顔をする。
「おい婆さん、割れちまったよ……安くしてくれ!」
男はレジに座っている老婆に訴えかけるが、その老婆は首を縦には振らない。それはそうだ、壊したのはこの男のせいなのだから。
男もそれを察したのか、より眉をひそませる。そして、床に這いつくばって泣きじゃくる桂馬を横目で見て、再び舌打ちをして店から出て行った。
瑠乃はその男を怯えた目で見つめ、店から出るのを確認すると……慌てて桂馬のもとへと駆けつけた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
瑠乃は一瞬躊躇したものの、床に突っ伏している桂馬の肩をかかえて抱き上げた。そして、殴られた右の頬を心配そうに見つめる。
桂馬からしてみると、頬の痛みよりも心の痛みのほうが遥かに痛いのだが。涙を拭いて、ポケットの中の財布から一万円札と五千円札を取り出した。
その金と亀裂の入ったゲームをレジの上に置いて、桂馬は半泣きのまま清算を要求する。ごめんよ、ジュリアンヌ……。
2
その後、店を出た二人は近くの公園のベンチに腰掛けた。桂馬は未だに目が赤いが、手に持っていたゲーム入りの袋を瑠乃に手渡す。中に入っているのはもちろん「星の瞳のジュリエット初回版A」だ。
受け取った瑠乃も、ちらちらと隣の桂馬を気にしている。
瑠乃の心にあるのは、どうしてこの人はあそこまでしてくれたのだろう―――という疑問である。この桂木桂馬という人は、このゲームにそこまで関心を示していなかった。反応も薄かったし、もしかしたらあまり価値もよく分かっていないのかもしれない。
でも。
怯えていた私のかわりに、この人はゲームを横取りしたあの男性に口論を仕掛けた。彼にとってはなんのメリットもないはずなのに。自分のせいで頬に怪我まで負っておいて、文句の一つも言わない……しかも、結局ゲームの代金も彼が払っている。
瑠乃は亀裂の入ったパッケージに目線を向けつつ言った。
「……あの、お金は私が払うから」
「いいよ、ゲームが割れた責任はボクにもあるし。お前はなにも悪いことしてないだろ」
桂馬はどんよりとした口調で答える。かなりショックを受けているようだった。
瑠乃は横目で桂馬を見つめる。この人は、なぜあんなにも身をていしてくれたのか。一見するとひ弱そうな外見なのに、意外と芯の部分は強い人なのかもしれない。
……そんなふうに、桂木桂馬という人間……というより「男」を肯定的に捉えていることに瑠乃は気づく。慌てて頭を横に振って、その思考を消し去る。何をやっているんだ、私は。
忘れたの?
瑠乃は自分に言い聞かせる。そして、少し桂木桂馬に気を許しすぎたかもしれないと反省する。今まで、最初に出会ったときも、そしてこの前天理の部屋であったときも、自分から彼への距離をとっていたのだ。自分は「そうすることに決めている」。揺るがせてはいけない。そこからきっとボロが出る。
世界はもっと緻密で完璧であるべきだ、と落とし神さまもよく言っている。
そうだ。
心を許せる相手なんて必要ない。
鳥羽瑠乃には―――落とし神がいるのだから。
瑠乃はそこまで考えをたどり着かせ、おもむろにベンチから立ち上がった。さあ、帰ろう。帰って部屋でゲームをしよう。
「さようなら」
そう言って、ゴスロリ服を揺らして帰ろうとする瑠乃の背中に、ベンチに座ったままの桂馬から声がかけられた。
「ごめんな」
瑠乃は背中越しにその声を聞いて、背筋に冷たいものを感じた。怖い。揺らいでしまうことが、怖い。瑠乃は振り返って、
「だから、別に、いいって」
と、言ったところ。
ベンチに座っていた桂馬は、しかめっ面をした。
「お前には言ってない。ジュリアンヌに言ってるんだ」
……はい?
瑠乃は一瞬、その言葉を理解できなかった。が、三周ほどしてやっと答えにたどり着く。
この人、ゲームキャラに謝ってるんだ。
瑠乃は、袋の中から割れたゲームを取り出した。こちらを向いているかと思われた桂馬の目線は、よく見ると、すべてこのゲームに向けられた視線であった。
…………。
「あ、あははっ」
そうして、瑠乃は小さく笑った。桂馬はそれに気づいて少し驚いた表情をする。瑠乃の笑った顔を見たのは初めてだったからだ。
(ばかばかしい)
そう思いながら、瑠乃は再び別れを告げた。
「あなた、筋金入りのゲームばかね」
「……ありがとう」
瑠乃は長い黒髪とゴスロリ服を翻してゆっくりと帰っていった。桂馬はその後ろ姿を見ながら、首をかしげる。
「あいつ、なんで笑ったんだ?」
「かーみにーさまー!」
桂馬が不思議そうに思っていると、突然エルシィがひょっこりと顔を出して駆けつけてくる。バンドの練習は思っていた以上に早く終わったらしい。おお、存在を忘れていた。
「見てたのか」
エルシィはさっきまで瑠乃が座っていた場所に腰掛けると、いつものごとく笑いながら話しかけてきた。
「神さま、すごいですね! かっこよかったですよ!」
「……なにが?」
「なにって、瑠乃さんの欲しがっていたゲームを男の人から奪い返したことです! 久しぶりに男らしい神さまを見ました~!」
普段のボクは女らしいのか、と桂馬は問おうとしたが、やめた。そして、なるほどな……と思考を巡らせる。最後の言葉の意味も含めて逆算していくとより分かりやすい。今回はもうジュリアンヌのことしか頭になかったが、もしかしたら意外と攻略自体も進んだのかもしれない。結果オーライというやつだ。そう思わないと、正直やっていられない。
帰り道、桂馬とエルシィは鳴沢駅で電車を待っていた。
ホームで列に並んでいると、最後尾にいたエルシィの後ろに一人の女性が並んできた。その女性は行きかう電車を食い入るように見つめるエルシィの肩を叩いて、
「あの、舞島行きはこの電車ですよね?」
「え、あ、はい、そうですよー……って、えっ!?」
すると突然エルシィが、自分の前でゲームをしていた桂馬の服の襟をつかんで引っ張ってきた。
「ぐえっ」
「か、かかか神さま!」
なんだよ! と憤りながら桂馬が後ろを振り返ると、そこには茶髪でウェーブのかかった、綺麗なセミロングの髪形をした女子高生が立っていた。見たことのない顔だ。桂馬はなんのことだ、とエルシィに小声で話しかける。
「知らないんですか神さま、この人、いま世界で活躍している女子高生ヴァイオリニストの鈴鹿音々さんですよ!」
「知らん!」
言って、桂馬は反射的に電撃攻撃が来るのではと冷や汗をかいたが、音々の顔を見ても不安そうな表情はしていなかった。
「知らなくて普通ですよっ」
音々は謙虚そうにそう言うが、エルシィは声のトーンを変えない。
「私は知ってますよ! こう見えて軽音楽部の一員なんですから!」
そういえばそうだった。確かに軽そうな頭をしている。
桂馬はそう思うが、口にはしない。言ったとたんどこからか蹴りが飛んできて黄色い線の外側に放り出されそうな気がしたからだ。
エルシィはそんな桂馬の頭の中など露知らず、音々に対して尊敬のまなざしビームを照射し続ける。
「え、でも、なんでここに?」
きょとん、とした顔で聞くエルシィに対して、音々は困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「私、美里東高校に在学しているので」
「そうなんですか!?」
それを聞いて、エルシィはぴょひーと飛び跳ねた。その反動でゲームをしていた桂馬の側頭部に箒の柄がぶち当たるが、エルシィは気づかない。
「に、二年生ですよね! あわわ~天理さんと同じクラスかもしれませんよ、神さま!」
……同い年か。そして、美里東の生徒。どうせなら鳥羽瑠乃に関係のあるキャラが出てきてはくれないものか……と一瞬思うが、撤回する。ややこしくなるのは勘弁だ……せっかく順調に進みかけているのに、変な異分子が入り込んでくるのは勘弁してほしいぞ。
「あ、じゃあ、とばる―――」
桂馬が知らんぷりを決め込んだ矢先にエルシィが首を突っ込もうとするので、桂馬はその口を塞いだ。
「おおおエルシィ! よく考えたら、ボクたちの乗る電車はこの電車じゃないぞ! 別方向だ!」
そう言って無理やりに話を切り取り、そそくさと列から外れていった。
鳥羽瑠乃と桂木桂馬は普通に暮らしていれば接点のない人物だ。したがって、この鈴鹿音々という女と鳥羽瑠乃との接点のあるなしに関わらず、とにかく美里東高の生徒に情報は渡したくない。触らぬ神にたたりなし、だ。
ホームから駅の中にもどると、もう音々の姿は見えなかった。
「まったく、余計なことをするな! 攻略に支障が出たらどうする!」
「それは私のセリフですよにーさま! もう音々さんには会えないかもしれないんですよ!」
「お前はどっちが大事だと思ってるんだぁ!」
桂馬がエルシィに怒号を飛ばしていた、その頃。
鈴鹿音々は、先ほどまでここにいた二人のうち―――男のほう、桂馬のことを思い出していた。
端正な顔立ちだった。まるで人形のような少年で、目線は鋭く瞳の色もきらめいていて。
けれど、手にしていたゲーム機に映っていたのは、どう見てもアニメかなにかのゲームだった。いわゆる、オタクというやつだ。
……つい、背筋がぞっとする。
彼もまた、画面の中に世界を求めている人間だったのだ。現実から逃げて、都合のいい場所に甘えている……悪口を言うつもりはないけれど、自分はどうしてもそういう認識しかできなかった。
現実に向き合うべき。鈴鹿音々は、心の中で常にそう思っている。
ともかく。
久しぶりに親友と会うのだ、そんな余計なことを考えるのはやめよう。音々は通り過ぎる電車を見つめながら言った。
「瑠乃、元気かしら……」
桂馬は思考する。
攻略は今日のラッキーイベントを含めれば、かなり順調に進んでいる。さっきも言ったようなイレギュラーとなるマテリアルさえなければ、エンディングもそれほど遠くはない。
このまま何もなければ。
「明日は、一気に攻めるぞ……!」
ドアはひらけた―――このまま乗り込む。
誰にも邪魔はさせない。
よし……種はまいた。
放課後、桂馬は早い時間に学校を出た。午前中すでに「落とし神として」瑠乃とは接触している。あとは、自分が「桂木桂馬として」会う。そのために向かうのは、ゲームショップだ。
帰宅ラッシュの中の電車に乗って、桂馬は鳴沢市を目指す。結局、エルシィは今回もいない。桂馬は学校を出る前、バンド練習に勤しむエルシィとした会話を思い出していた。
「神さま、私も練習が終わったら急いで行きますから!」
……今回はお前がいても役にはたたないかもな。
「でも、この前は私もしっかりと役に立っていたじゃないですかー!」
……役に立ったのはお前の持っている羽衣だ。
「その形を変えたのは私じゃないですかー!」
……形を変えろと指示したのはボクだ。
桂馬はまげを揺らして陽気に話しかけるエルシィに対して、心の中だけでツッコミを入れる。桂馬からしてみれば、エルシィなんぞとノホホンと話をしている場合ではないのだ。瑠乃の性格上、攻略の合間での好感度がガクンと落ちる可能性は非常に高い。一歩見誤るだけで一気にバッドエンド直入……なんてこともありえる。一昨日のミスは奇跡的に回避できたが、いつまでもそうは言ってられない。
結局、エルシィにはこれから向かう店の情報だけを伝えて別れた。
向かったのは、鳴沢市に存在するゲームショップ「オジマップ」……の裏に存在する、名前もないような小さなゲームショップだった。
桂馬は入り口のドアを開けて中に入る。店自体はかなりボロくて狭い作りだが、いたるところにゲームが敷き詰めてあって品揃えはよさそうだ。
狭い店内では、探していた人影がすぐに目に入る。
桂馬は彼女に気づいた。そしてもちろん、向こうからも。
「えっ、あ……」
「やあ、こんにちは」
店内で真剣にゲームを選んでいたのは、午前中に「落とし神として」接触をした桂馬にここに呼び寄された張本人、鳥羽瑠乃だ。
桂馬は薄く笑って挨拶をする。
「奇遇だね、また会うなんて」
「う、うん」
この前はこの前で平気に話していた瑠乃だったが、間が開いたからなのかまた少しよそよそしい態度に戻っている。
「……あなたも、ゲームを買いに来たの?」
「ああ。君も?」
「今日、落とし神さまから情報をもらったから……」
――――その返答はは予想通りだった。今日、サイトで流した極秘情報……この店で、レア物のギャルゲーが緊急入庫するという話。瑠乃からもらったメールの返信に、ひっそりと書いておいたのだ。
「星の瞳のジュリエット初回版A」
一度エルシィの失態で入手を逃したものの、その後桂馬の尽力で手に入れた激レアギャルゲーである。そんなゲームがなぜこんな小さいゲームショップにあるかと言えば、それは簡単。今日の開店と同時に、桂馬は自分が持っていたそのゲームをこの店に売りに来たのだ。学校にも遅刻したうえ貴重なゲームを失う、という涙なしにはできない行為だったが、確実に瑠乃を釣るにはこの方法しかなかった。案の定、その情報を聞いた瑠乃はこうしてゲームショップに駆けつけている。
「―――へえ、落とし神から。なんてゲーム?」
「星の瞳のジュリエット、の……初回版A。知ってる?」
「ああ、聞いたことはあるかもしれない。確かに、レア度は高かった気がするよ」
桂馬はわざとそっけない態度を取る。もし自分がここでその情報を初めて手に入れたとすれば、瑠乃の首筋をチョップして気を失わせてでも奪取するところだったが……今回はそんなことはできない。苦渋の選択ではあるが。
「意外だね、欲しがらないんだ」
「……ま、まあ、やったことあるからな」
「えっ、持ってるの?」
うっかり口を滑らせた。桂馬は口惜しさを一度体の外に放り投げて、攻略に集中する。
「通常版をな!」
桂馬が苦しげに取り繕うと、瑠乃は納得したような表情を見せる。
「あ、なるほど……初回版っていっても、そんなに違いはないもんね」
そんなに違いがない?
桂馬はその言葉に裏で目くじらを立てた。何を言ってる。OPムービーが違うし、コンプ後の音声特典も違う。特典ブックレットもパッケージも違う……大違いじゃないか!
これまでの瑠乃から落とし神あてへのメールでも感じてはいたが、瑠乃は意外とライトなゲーマーだ。まあ、落とし神と比べればどんなプレイヤーでも超ライトな存在になってしまうが……。
とにかく。攻略に集中しよう。
瑠乃はその後、にこにことしながら店の奥へと駆けていった。そして、中古コーナーにある目当てのゲームを手に取る。目を輝かせながら、パッケージを嬉しそうに眺めている。
それを見ながら、桂馬は次の行動を考える。せっかく放課後の時間に二人きりになれたんだ、ここで一気に攻略を進める。瑠乃も自分には中々に気を許しているようだし、このままイベントを積み重ねていけば……攻略はかなり進むに違いない。
桂馬は顎に手を当てながら情報を拾い集め、構築して、再び展開していく。染み出た液体のように、じわりじわりとその範囲を広げていって―――
ふと、瑠乃のほうを向いたそのとき。
「あ、『星の瞳のジュリエット』だ」
メガネをかけた小太りの男が、そのゲームを瑠乃の手から奪い取ったのだ。桂馬はそれを見て目を見開いたが、瑠乃はといえば、まるで手のひらの上に毛虫が這ったかのような反応を見せて、一瞬で手を引いた。
男は瑠乃を訝しげに眺めたが、すぐに無視してゲームのパッケージに目を移す。一万五千円という高額な値段には眉をひそめはしたものの、価値を理解したのか、それを老婆が座っているレジへと持っていこうとする。
(な、なんだ―――あの男!)
桂馬は怒りを覚えながら地団太を踏んだ。せっかく、せっかく自分が瑠乃と出会うきっかけを作るために涙をのんで売り出した「星の瞳のジュリエット初回版A」を……なんであんなわけの分からない男に渡さなければいけないのか!
桂馬は瑠乃の背中を睨み、早く取り返せ、と念じる。しかしよく考えてみれば、それは到底無理な相談だった……鳥羽瑠乃は、極度の男性恐怖症なのだから。そして、ふと一つの発想が浮かぶ。もしこのままあの男にゲームを買っていかれれば、ある意味、より有益な攻略状況になるかもしれない。
マイナスな気分になった瑠乃をうまくフォローできれば……!
と、思ってはみたのだが。
そうはいっても、我慢できない状況もあるのだ。
このときばかりは、桂馬も攻略のその後など頭から消し飛んでいた。心の中にあるのはただ、あのゲームを渡すものかという強い意志である。
「おい婆さん、これくれ」
そう言って、男がレジにそのゲームを差し出そうとした手を。
桂馬は掴んで、制止した。
「なんだ、お前」
当然のごとく、男は桂馬をきつく睨みつけた。
しかし、桂馬も退かない。早く星の瞳のジュリエット初回版Aから手を離せ。
「そのゲームは、あいつが持ってたやつだろ」
言って、桂馬は瑠乃を指差した。男もそちらを見つめ、瑠乃の体がビクッと震えるのが見える。
「他人が見てたゲームを奪うな。あいつに返せ」
そう言われた男は大きく舌打ちをした。ガラの悪い男だな、と思うが、桂馬にとってはパセリ程度にしか見えていない。
「うるせーぞ、クソガキ! お前のその理屈なら、今お前が俺に文句言ってくんのもおかしいだろうが!」
そして、店内に響くような声で叫んだ。桂馬は動じないが、瑠乃は慌てて桂馬の服の裾を指でつかむ。そして、小さく引っ張った。
「あ、あなた……やめて。もう、いいから」
「よくない!」
桂馬は瑠乃に向けて強く言う。そうだ、この初回版Aを手に入れるのに、自分がどれだけ苦労したと思っているのだ。落とし神としての情報網とコネを使い、やっとの思いで手に入れたものなのである。それをこんなたまたま居合わせたような奴に手に入れられるなど、絶対に絶対に許せない。
「こんな奴に渡す必要は、ない!」
「ああん!?」
さすがにその言葉は頭にきたのか、ついに男は顔を真っ赤にして本気で怒った。そして、右手で桂馬の頬を思いっきり殴る。
「うわっ!」
体重がありそうな男なだけあって、パンチの威力はかなり強かった。それでもハクアの地獄鎌攻撃とくらべれば三分の一くらいの程度の威力だが、桂馬は床に倒れこむ。
そして、男が持っていたゲームも。
ガシャン、とパッケージごと床に落ちた。
嫌な音がして、桂馬は頬の痛みも気にせずそのゲームに近寄る。取り上げて見てみると、案の定……パッケージには、見事に亀裂が入っていた。
(う、う、う、うわあああああああああああああああああ!)
桂馬は心の中で思いっきり涙を流した。パッケージに描かれている「星の瞳のジュリエット」のヒロインであるジュリアンヌが、まるで瓦割りをされたかのように上から下へ真っ二つに引き裂かれていた。これは酷い。桂馬は体中から暗黒のオーラを吹き出して、泣いた。
「げっ、割れちまったじゃん……!」
そんなゲームを見て、男は不機嫌そうな顔をする。
「おい婆さん、割れちまったよ……安くしてくれ!」
男はレジに座っている老婆に訴えかけるが、その老婆は首を縦には振らない。それはそうだ、壊したのはこの男のせいなのだから。
男もそれを察したのか、より眉をひそませる。そして、床に這いつくばって泣きじゃくる桂馬を横目で見て、再び舌打ちをして店から出て行った。
瑠乃はその男を怯えた目で見つめ、店から出るのを確認すると……慌てて桂馬のもとへと駆けつけた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
瑠乃は一瞬躊躇したものの、床に突っ伏している桂馬の肩をかかえて抱き上げた。そして、殴られた右の頬を心配そうに見つめる。
桂馬からしてみると、頬の痛みよりも心の痛みのほうが遥かに痛いのだが。涙を拭いて、ポケットの中の財布から一万円札と五千円札を取り出した。
その金と亀裂の入ったゲームをレジの上に置いて、桂馬は半泣きのまま清算を要求する。ごめんよ、ジュリアンヌ……。
2
その後、店を出た二人は近くの公園のベンチに腰掛けた。桂馬は未だに目が赤いが、手に持っていたゲーム入りの袋を瑠乃に手渡す。中に入っているのはもちろん「星の瞳のジュリエット初回版A」だ。
受け取った瑠乃も、ちらちらと隣の桂馬を気にしている。
瑠乃の心にあるのは、どうしてこの人はあそこまでしてくれたのだろう―――という疑問である。この桂木桂馬という人は、このゲームにそこまで関心を示していなかった。反応も薄かったし、もしかしたらあまり価値もよく分かっていないのかもしれない。
でも。
怯えていた私のかわりに、この人はゲームを横取りしたあの男性に口論を仕掛けた。彼にとってはなんのメリットもないはずなのに。自分のせいで頬に怪我まで負っておいて、文句の一つも言わない……しかも、結局ゲームの代金も彼が払っている。
瑠乃は亀裂の入ったパッケージに目線を向けつつ言った。
「……あの、お金は私が払うから」
「いいよ、ゲームが割れた責任はボクにもあるし。お前はなにも悪いことしてないだろ」
桂馬はどんよりとした口調で答える。かなりショックを受けているようだった。
瑠乃は横目で桂馬を見つめる。この人は、なぜあんなにも身をていしてくれたのか。一見するとひ弱そうな外見なのに、意外と芯の部分は強い人なのかもしれない。
……そんなふうに、桂木桂馬という人間……というより「男」を肯定的に捉えていることに瑠乃は気づく。慌てて頭を横に振って、その思考を消し去る。何をやっているんだ、私は。
忘れたの?
瑠乃は自分に言い聞かせる。そして、少し桂木桂馬に気を許しすぎたかもしれないと反省する。今まで、最初に出会ったときも、そしてこの前天理の部屋であったときも、自分から彼への距離をとっていたのだ。自分は「そうすることに決めている」。揺るがせてはいけない。そこからきっとボロが出る。
世界はもっと緻密で完璧であるべきだ、と落とし神さまもよく言っている。
そうだ。
心を許せる相手なんて必要ない。
鳥羽瑠乃には―――落とし神がいるのだから。
瑠乃はそこまで考えをたどり着かせ、おもむろにベンチから立ち上がった。さあ、帰ろう。帰って部屋でゲームをしよう。
「さようなら」
そう言って、ゴスロリ服を揺らして帰ろうとする瑠乃の背中に、ベンチに座ったままの桂馬から声がかけられた。
「ごめんな」
瑠乃は背中越しにその声を聞いて、背筋に冷たいものを感じた。怖い。揺らいでしまうことが、怖い。瑠乃は振り返って、
「だから、別に、いいって」
と、言ったところ。
ベンチに座っていた桂馬は、しかめっ面をした。
「お前には言ってない。ジュリアンヌに言ってるんだ」
……はい?
瑠乃は一瞬、その言葉を理解できなかった。が、三周ほどしてやっと答えにたどり着く。
この人、ゲームキャラに謝ってるんだ。
瑠乃は、袋の中から割れたゲームを取り出した。こちらを向いているかと思われた桂馬の目線は、よく見ると、すべてこのゲームに向けられた視線であった。
…………。
「あ、あははっ」
そうして、瑠乃は小さく笑った。桂馬はそれに気づいて少し驚いた表情をする。瑠乃の笑った顔を見たのは初めてだったからだ。
(ばかばかしい)
そう思いながら、瑠乃は再び別れを告げた。
「あなた、筋金入りのゲームばかね」
「……ありがとう」
瑠乃は長い黒髪とゴスロリ服を翻してゆっくりと帰っていった。桂馬はその後ろ姿を見ながら、首をかしげる。
「あいつ、なんで笑ったんだ?」
「かーみにーさまー!」
桂馬が不思議そうに思っていると、突然エルシィがひょっこりと顔を出して駆けつけてくる。バンドの練習は思っていた以上に早く終わったらしい。おお、存在を忘れていた。
「見てたのか」
エルシィはさっきまで瑠乃が座っていた場所に腰掛けると、いつものごとく笑いながら話しかけてきた。
「神さま、すごいですね! かっこよかったですよ!」
「……なにが?」
「なにって、瑠乃さんの欲しがっていたゲームを男の人から奪い返したことです! 久しぶりに男らしい神さまを見ました~!」
普段のボクは女らしいのか、と桂馬は問おうとしたが、やめた。そして、なるほどな……と思考を巡らせる。最後の言葉の意味も含めて逆算していくとより分かりやすい。今回はもうジュリアンヌのことしか頭になかったが、もしかしたら意外と攻略自体も進んだのかもしれない。結果オーライというやつだ。そう思わないと、正直やっていられない。
帰り道、桂馬とエルシィは鳴沢駅で電車を待っていた。
ホームで列に並んでいると、最後尾にいたエルシィの後ろに一人の女性が並んできた。その女性は行きかう電車を食い入るように見つめるエルシィの肩を叩いて、
「あの、舞島行きはこの電車ですよね?」
「え、あ、はい、そうですよー……って、えっ!?」
すると突然エルシィが、自分の前でゲームをしていた桂馬の服の襟をつかんで引っ張ってきた。
「ぐえっ」
「か、かかか神さま!」
なんだよ! と憤りながら桂馬が後ろを振り返ると、そこには茶髪でウェーブのかかった、綺麗なセミロングの髪形をした女子高生が立っていた。見たことのない顔だ。桂馬はなんのことだ、とエルシィに小声で話しかける。
「知らないんですか神さま、この人、いま世界で活躍している女子高生ヴァイオリニストの鈴鹿音々さんですよ!」
「知らん!」
言って、桂馬は反射的に電撃攻撃が来るのではと冷や汗をかいたが、音々の顔を見ても不安そうな表情はしていなかった。
「知らなくて普通ですよっ」
音々は謙虚そうにそう言うが、エルシィは声のトーンを変えない。
「私は知ってますよ! こう見えて軽音楽部の一員なんですから!」
そういえばそうだった。確かに軽そうな頭をしている。
桂馬はそう思うが、口にはしない。言ったとたんどこからか蹴りが飛んできて黄色い線の外側に放り出されそうな気がしたからだ。
エルシィはそんな桂馬の頭の中など露知らず、音々に対して尊敬のまなざしビームを照射し続ける。
「え、でも、なんでここに?」
きょとん、とした顔で聞くエルシィに対して、音々は困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「私、美里東高校に在学しているので」
「そうなんですか!?」
それを聞いて、エルシィはぴょひーと飛び跳ねた。その反動でゲームをしていた桂馬の側頭部に箒の柄がぶち当たるが、エルシィは気づかない。
「に、二年生ですよね! あわわ~天理さんと同じクラスかもしれませんよ、神さま!」
……同い年か。そして、美里東の生徒。どうせなら鳥羽瑠乃に関係のあるキャラが出てきてはくれないものか……と一瞬思うが、撤回する。ややこしくなるのは勘弁だ……せっかく順調に進みかけているのに、変な異分子が入り込んでくるのは勘弁してほしいぞ。
「あ、じゃあ、とばる―――」
桂馬が知らんぷりを決め込んだ矢先にエルシィが首を突っ込もうとするので、桂馬はその口を塞いだ。
「おおおエルシィ! よく考えたら、ボクたちの乗る電車はこの電車じゃないぞ! 別方向だ!」
そう言って無理やりに話を切り取り、そそくさと列から外れていった。
鳥羽瑠乃と桂木桂馬は普通に暮らしていれば接点のない人物だ。したがって、この鈴鹿音々という女と鳥羽瑠乃との接点のあるなしに関わらず、とにかく美里東高の生徒に情報は渡したくない。触らぬ神にたたりなし、だ。
ホームから駅の中にもどると、もう音々の姿は見えなかった。
「まったく、余計なことをするな! 攻略に支障が出たらどうする!」
「それは私のセリフですよにーさま! もう音々さんには会えないかもしれないんですよ!」
「お前はどっちが大事だと思ってるんだぁ!」
桂馬がエルシィに怒号を飛ばしていた、その頃。
鈴鹿音々は、先ほどまでここにいた二人のうち―――男のほう、桂馬のことを思い出していた。
端正な顔立ちだった。まるで人形のような少年で、目線は鋭く瞳の色もきらめいていて。
けれど、手にしていたゲーム機に映っていたのは、どう見てもアニメかなにかのゲームだった。いわゆる、オタクというやつだ。
……つい、背筋がぞっとする。
彼もまた、画面の中に世界を求めている人間だったのだ。現実から逃げて、都合のいい場所に甘えている……悪口を言うつもりはないけれど、自分はどうしてもそういう認識しかできなかった。
現実に向き合うべき。鈴鹿音々は、心の中で常にそう思っている。
ともかく。
久しぶりに親友と会うのだ、そんな余計なことを考えるのはやめよう。音々は通り過ぎる電車を見つめながら言った。
「瑠乃、元気かしら……」
桂馬は思考する。
攻略は今日のラッキーイベントを含めれば、かなり順調に進んでいる。さっきも言ったようなイレギュラーとなるマテリアルさえなければ、エンディングもそれほど遠くはない。
このまま何もなければ。
「明日は、一気に攻めるぞ……!」
ドアはひらけた―――このまま乗り込む。
誰にも邪魔はさせない。
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