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神のみ・サンデーの感想ブログ。こっちはまじめ。
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神のみぞ知るセカイを人生の主軸、少年サンデーとアニメを人生の原動力としている人。
絵やSSもたまに書きますが、これは人生の潤滑油です。つまり、よくスベる。

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※神のみぞ知るセカイの二次創作のSSです。天理とディアナがメインとなったストーリーですが、多少原作との差異があり、その他のキャラにおいても個人のイメージで補われた性格設定が存在します。また、かなりつたない文章なので読みにくいかもしれません。それでもOKという人は、お気軽にどうぞ!(以降の話はこちら



これは、いつかの話。
内に女神を秘めた少女が、一人の少年と出会った、五年後の話。
内に女神を秘めた少女が、一人の少年と再会する、五年前の話。


-------------------------------------------------------------------------


私は、物事の中心に立つのが得意ではない。
人と喋ったりするのも、遊んだりするのももちろん楽しい。でも、自分から何かを仕切ったり、あれをしよう、こうしようと率先したりはしたことがなかった。私の中では、幸せは作り出すものではなくて「見つけ出すもの」という位置にあって、例えば自分のしたい遊びができなくても、今やっている別の遊びで新たな楽しさを発見することができれば、それは妥協でもなんでもなく、むしろ進歩……だと、思う。食べたいと思っていたプリンがパパに取られたとしても、残ってあったコーヒーゼリーがおいしくなくなるかと言われれば、もちろんそんなことはなくて。
幸せはどこにでもあって、私はつぶさにそれを探していきたい。
だから私は、この町からでてあの人に会いに行こう……なんて思ったことは一度もなかった。もちろん、会いたい、話したいと思うことはあったけれど――――私は今のままでも十分よかった。友達と遊んで、ママと一緒にクッキーを作って、パパと一緒にドライブして。

私の中にいる「彼女」と、いつも同じことを共有して。

それでいいと思っていた。でも、小学校を卒業して中学校に入学する前の春休み、突然「彼女」は鏡越しの私に向けてこう言ってきた。
「天理、一つ相談があるんですが」
なに?あらたまってどうしたの、ディアナ。

「舞島市に行きましょう」

私の頭の上の歯車が、カチッ、と動き出した気がした。 






-------------------------------------------------------------------------


-鮎川 天理(あゆかわ てんり)-
12歳。春から中学一年生。


……やだ。
私がそう答えると、ディアナはため息をついた。
「まあ、そう言うと思っていましたが……どうしてですか!天理は会いたいと思っているんでしょう?桂木桂馬に!」
桂木桂馬。
その名前を聞くと、胸の奥がじんわりと暖かくなる。五年前のあの突飛な出来事が再び頭の中をめぐって、めぐって、桂馬くんの顔を思い出して……また暖かくなる。
桂木桂馬、桂馬くんは私の初恋の人だ。ディアナからは「どうしてあんなよく分からない人が」と言われるけれど、どうしてと聞かれたら私もよく分からない。ただ一つ思い出せることは、彼はとても強くて、まっすぐで……えーと、ようするに……かっこいい人だった。
…………。
あのころの私は今の三倍は動きが遅くて、優柔不断で、泣いてばかりだったと思う。でも桂馬くんはそんな私の手をとってくれた。あんな暗い世界の中で迷わずに一直線に進んでいっていた。たぶんこの世に神様がいれば、あれくらい揺ぎ無い人だと思う。
だからこそ、会いたい。会って話してみたい。
「だったらどうして!」
……だって、電車に一人で乗ったことないし……。
「私がいますよ」
……舞島市って、広いし……。
「天界に比べればどうってことないです」
……。
私が黙ったのを見て、ディアナはしめた!というような顔をした。
「これで問題は万事解決ですね。行きましょう!ね?」
……。
正直、このとき私は少しびっくりしていた。ディアナがこんなにも私に「○○しなさい!」って言うことはあんまりないから。もちろん、嫌いな食べ物を残そうとするとディアナは「何をしてるんですか!お母様がせっかく作ってくれたお料理ですよ、残してはいけません!」と言って、私をどんどん激励してくる。昔私がピーマンを残していたときに、
「がんばってください、天理。これから天理がピーマンを一切れ食べるごとに、私が『フレー』と応援しますから。しかも、言う回数をどんどん2倍していきましょう」
なんて言ってきたこともあった。ディアナの声でテレビが聞こえなくなるのを嫌がった私は、結局それで全部のピーマンを食べたうえ、算数の勉強をすることもできた。
とにかく、ディアナはそういう「やるべきことをしない」ときには私に怒ってくれるのだけれど、こういうことはけっこう私の自主性に任せてくれることが多かった。それが今回は、何度も何度も推してきていて……私は結局折れることに決めた。今ピーマンがおいしく食べられるのも、ディアナのおかげだったから。


でも、なんで今日なの?
出かける準備をしながら、私は鏡の中のディアナに問いかけた。
「なんでって、天理も桂木桂馬も、あと一週間もすれば中学生じゃないですか。中学生になれば学校全体の人数だって増えますし、桂木桂馬が他の女性に口説かれる可能性も増えてしまうからですよ。そしてもちろん、天理も」
わ、私は口説かれたりしないよ、絶対!……それに、もし、もしのもしされたとしても、断るし……。
「だからですよ!私のエネルギーは『愛』なんですから、相手が桂木桂馬でなくても一向にかまわないんです、私は。だから小学生のときも天理になんども『恋しなさい』って言ったのに……天理はそれの一点張りじゃないですか。だったらもう、桂木桂馬と愛し合ったほうが早い、と踏んだんです」
あ、あ、愛し合う!?
胸の中の暖かさが、一気に体中を駆け巡って、昇って、頭からボンッと吹き出す。一瞬変なことを想像してしまった。ばかばか、だめだめ!
ディアナのばかー……。
「天理がもっと愛の力を強めれば、私だってこうして鏡越しに話すだけでなくて、完全な「別人格」として会話できるようにもなりますよ。そうなれば、天理の体自体を私の意志で動かすこともできるようになるはずです」
そ、そうなの?
「そうですよ。そうなってしまえば、天理の体を操って桂木桂馬を色仕掛けで落とすこともできるんですが……」
…………。
「み、三つ編みを編むのをやめないでください、天理!冗談ですから!」


……でも、ディアナ。やっぱり行くのは別の日にしない?私、今日はちょっと……。
「え、なんでですか?」
私は前髪を指で触る。昨日パパに、中学校に進学するからと言われて髪の毛を切ってもらった。切ってもらったんだけど……パパが気合を入れすぎて、いつもより前髪が短く切られちゃって……せっかく桂馬くんに会いに行くのに、前髪が短いのは……。
ディアナは鏡の中から外の私を覗き込んで、目を細めて一歩下がった場所から眺めている。
少しして、「大丈夫です」と言った。
「もとより天理の前髪は長すぎます!天理の目線は私も共有しているから分かりますが、そのうち目が悪くなりますよ?このくらいが丁度いいくらいです。それに前髪が短いほうが、その目で桂木桂馬を悩殺することもできますしねっ!」
…………。
「だから、どんどんうつむいていかないでください、天理!冗談ですから!」



そうこうしながら準備が終わって、私はママにその旨を告げた。そうすると意外にもママはすぐにOKをくれて、お金を渡してくれた。
い、いいの?
「もちろんよ。天理がそんなふうに自分から動くなんて、ママちょっとびっくりしちゃった!なにかあったら、すぐ電話するのよ?」
う、うん。
「いってらっしゃい」
「……いってきます」

ママに見送られて、私とディアナは家を出た。とりあえず最寄の美里駅まで歩いていって、そこから電車に乗って舞島駅まで行く……という行きかたに決まったので、美里駅までゆっくりと歩いていく。
「それにしても、天理のお母様はいつも理解のあるお母さんですね」
うん、ママはやさしいよ。
「天理の中に私がいる、ということをお母様に話しても、もしかしたら理解してくれるかもしれませんね」
うーん……さすがにそれはどうかなぁ。ママ、私と一緒で怖い映画とかダメだから、びっくりして気絶しちゃうかも。
「私は死霊ですか!?」
えー、でも、人というよりはそっちに近い気もするよ。ざしきわらしみたいな。
「ほめられているのでしょうか……」
私はくすっと笑った。やっぱり、ディアナがいると楽しい。初めて電車に乗って、私とディアナだけで町を出る。見知らぬ町で桂馬くんを探すという、これは一つの旅だ。ママはびっくりしていたけれど、一番驚いているのは私かもしれないなぁ。私の心は今、不安と不安と不安と不安と、一縷の期待……の裏側にまた、不安がある。だけど私は歩いてみようと思った。ママやディアナが後押ししてくれたというのももちろんあったけれど、やっぱり私は、コーヒーゼリーよりも、ヨーグルトよりも、アイスよりも、プリンが食べたいと思っていたのかもしれなかった。不安がよぎって苦労をするけれど、それに直面してもなお、感じてみたい思いというものが、まだ見えない向こう側……舞島市にある。

桂馬くんに、会いたい。
五年前のあの突飛な出来事が再び頭の中をめぐって、めぐって、桂馬くんの顔を思い出して……前よりもっと、暖かくなる。


-------------------------------------------------------------------------




-春日 檜-
15歳。春から高校一年生。


そうして、家から歩き出した私たちは、15分くらいで美里駅に到着した。前にママと買い物に行くときに使ったことがあるけれど、頼れる誰かがいない中で電車に乗るのは初めてだった。
「だから、私がいるじゃないですか」
ディアナがぶっきらぼうに言う。もちろんディアナはいつだって私を支えてくれるけれど、私と同じでこういう近代文化にはとても弱い。今私は切符の買い方をやっとの思いで思い出したばかりで、こればかりはディアナには頼れないから大変だ。
「その件については、まあ、認めますけど……。でもそういう場合は、色々なところにいる『駅員さん』に買い方を尋ねてみればいいのでは?」
む、無理だよ……知らない人に話しかけるなんて。
「何を言ってるんですか」
だって、怖いし……。
「怖いって、駅員さんは親切に接してくれますよ!」
こ、怖いっていうか、その……迷惑かけたくないもん。
「駅員さんが、切符売りの案内を迷惑に思うはずがないじゃないですか!変なところで気を遣いすぎです、天理は」
そう、かな。
「そうですよ。――ああ、こういうときに私が天理の体を使えれば便利なんですが……。天理に憑依して、私が直接話せば解決ですよ。天理の中にもっと『誰かへの愛』があれば!」
じゃ、じゃあ、鏡を持っていって、鏡越しに駅員さんと話すのはどう?鏡越しなら他の人にもディアナの声が聞こえるし……。
「それは間違いなく迷惑をかけます」
……それに、二人分のお金を払わないといけなくなっちゃうね。
変なところで気を遣いすぎです、とディアナは言った。
 

私は今まで、一人で町を出たことはなかった。「舞島市」はそれほど遠くないし、もしかしたらスーパーの特売を求めたママと一緒に行ったことがあったかもしれない。
でも私にとっては、舞島はとてもとても遠い場所だった。距離的にではなく、五年前のあの日のことがあまりにも突飛な出来事すぎて……まるで、夢の中にいたような気分だったから。夢のようで掴みどころがなくて、もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。そう思うと、舞島はとても遠くて。

夢だったらどうしよう。
彼がこの世界にいなかったらどうしよう。

「天理は過去にとらわれすぎです」
ディアナは言った。切符を買う列に並んで、私は財布を開けようとしていたけれど、その言葉で手が止まる。
……それは、
それは、忘れたほうがいいってこと?
「そうではありません」
列の人数が一人、減った。
「桂木桂馬と出会った、という過去は揺らいでいるのに、未だ町を出たことがないという過去は逆に天理を縛っています。プラスとマイナスをシフトしてください。桂木桂馬と出会った思い出は、天理を閉じ込めるものではなく……天理を鼓舞させるはずのものではないのですか」
…………。
私が荷物の中の鏡を見ると、ディアナはこちらを向いていた。プラスとマイナスのシフト。ディアナはいつも、必ず私を見透かしている。
「……鏡越しに世界を見るのは、やめてください」
言って、ディアナは恥ずかしそうに目をそらした。私は財布を開け、舞島駅までの乗車賃を取り出す。それをしっかりとにぎりしめて、列の順番が来るのを待った。

 
「次の停車駅は、『舞島』、『舞島』です。」

緊張しながら乗っている電車の中に、快活なアナウンスが聞こえる。……やっと、だ。私は深く安堵の息を吐く。
「『案ずるより生むが安し』とは言いますが、電車もたいした障害ではありませんでしたね」
頭の中でそう言いながら、ディアナは私よりも安心しているようだった。
「切符はお金を入れて、欲しい種類をタッチするだけ。改札は切符を入れて通るだけ。乗るべき電車の種類と場所は液晶画面に映る。……あえて言いましょう、これしきで失敗する人なんているんですか?」
とにかくディアナは誇らしげだ。
でも確かに、不安に感じすぎていたのは事実かもしれない。私は小さく深呼吸する。肩の荷がするりと降りたみたいだった。
電車の窓から外を見ると、どこもかしこも知らない建物ばかりが並んでいた。しかも、それが一瞬のうちに通り過ぎていく。胸がドキドキと脈打つのが分かって、感じたことのない気持ちが私をせかした。そして、電車が――――停止する。
 
ドアが開くと、一気に人が出て入ってくる。空気が入れ替わって、慣れない潮の香りがぶわーっ、と私の周りを囲んだ。私は誰もいない座席の隣を見る。桂馬くんがそこに、私の隣にいるような錯覚を感じたから。
帰ってきた。
私はゆっくりと立ち上がる。もうここからは完全に見知らぬ場所だけど、不思議と怖くはなかった。
「天理、行きましょう!」
私は急いで車内から出る。合図を出したディアナは、誰よりも興奮しているようだった。


「うわぁ……広い」
駅構内に出ると、私はまず最初にそう感じた。家の近くの美里駅自体があんまり大きくないというのもあるけれど、舞島駅は広くて大きかった。駅の辺りは五年前の地震で結構大きな被害を受けてしまって、舞島駅も新たに建て直されたというのは聞いていたけど。
「で、この後はどうするんですか?」
ディアナがせかすように私に言う。えーとね、とりあえず、改札から出ないと。入ったときと同じように、切符を入れて出るんだと思うよ。

…………あれ?

「なるほど。なら早めに出ましょう」
…………あれ。
私は再び財布を開ける。
「どうしました、天理?」
その後、持っていた荷物の中を探す。
「もしかして」
…………。
「…………」
……なくしちゃった、切符……。
「な……く……す……?」
私とディアナは、一緒に頭の中がからっぽになった。切符がないと改札から中へは入れなかった。そして、ないと外へも出られない。
どうしよう……。
私の目に、じんわりと涙ができる。
「お、おち、落ち着いてください、天理!まずはもう一回探しましょう。どこに入れたんですか?」
お、お財布の中だよ。
「なら、そこをもう一回探して―――」
私がもう一度財布を開けようとした、そのとき。ちゃりん、と音がした。え、なんだろうと思ってみてみると、それは十円玉だった。私が落としたのかな……?と思って拾おうとすると、財布の口は閉まったままなのに、またちゃりん、と一枚硬貨が落ちる。
私は嫌な予感を覚えながら、財布の底面を覗き込む―――と。
「あ、穴が……」
「開いてる……」
私とディアナはもう一度、二人そろって頭の中がからっぽになって絶句した。と同時に、探さなくても切符の行方を察知できた。
落とした。落としてしまったのだ。
「な、なんということでしょう……!」
ディアナは私よりはやく絶句から立ち直り、ギリギリと歯軋りをし始めた。
「どーしてこんなタイミングが悪いんですか!わざわざこんな日に神が悪戯をしなくても……ううぅ!どの神ですか!?天理に悪意を向けたのはどの神ですか!財布の神……いや、物落としの神ですね!?」
ディアナはどこにいるのかも分からない落としの神様を呪っていたけれど、私はただ静かにパニックに陥っているしかなかった。どうしよう、こういうときは……駅員さん?でも、いいのかな。お金を払わないで乗ったのかって思われたり……怒られたり、するかもしれない。それを想像すると私は萎縮してしまい、足が止まる。また新たな電車が到着し、どこかの電車が発進する。人通りがどんどん増えていって、私は落とした小銭を拾えないまま、人ごみに流さそうになる。どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
「天理!」
ディアナの声も、よく聞こえない。誰か助けて、と手を伸ばそうとしても、ママもパパもいないし、そして……彼も、桂馬くんもいない。不安が胸の中を支配する。そしてまた、涙が一粒、流れて―――

「泣くな、プリティーガール!」

はっ、
と私は顔を上げた。その目の前には、一人の女性がいて……私の涙を拭いてくれていた。
「………え、……えっ……?」
「どーしたどーしたー?かわいい顔が台無しだぞ?」
困惑する私の前でその人は、にこにこっと満面の笑顔で笑う。私の涙を拭き終わると、今度は頭を撫ではじめる。
「迷子、かな?」
しゃがんでいた女性は、私にそう聞くとすっくと立ち上がった。女性はとても身長が高く、何よりスタイルがすごくて……ラフな服装のせいで、体型の豊満さがすごくよく分かる。
中学生……にはどうにも見えない。高校生か、あるいはそれ以上だったかもしれない。これでもしまだ高校に入学していないとすれば、完全にこの容姿は天から与えられた才能だとしか思えなかった。将来モデルになるような人は、きっとこういう類の人に違いない。
ともあれ、私はそれで少し落ち着きを取り戻した。深呼吸をすると、ディアナの声も少しずつ聞こえるようになってきた。
「て、てて、天理、まずは落ち着くんです!えーと、店員さんに、店員さんに聞きましょう!」
……ディアナはまだ落ち着いていないようだった。
「どうしたの?おかーさんとはぐれちゃった?」
お姉さんは私を大きな瞳でじっと見つめて、またにこりと笑う。私は少し安心して、切符をなくしてしまったんです、と言おうとする。
「…………」
切符をなくしてしまったんです。
「…………き、きっ、……」
……緊張して、う、うまく声が出ない……。ずっとディアナと心の中でばかり話していたから、ただただ口がパクパクしてしまう。喋らないと、喋らないと、と思えば思うほど頭の中が空回りしてしまって、無言のまま時間が過ぎる。どうしよう、怒られちゃう……!
「切符ね?」
「えっ」
お姉さんの言葉に一番に反応したのはディアナだった。やっとディアナは落ち着いて、そしてまたビックリする。その人はまるで心を読んだみたいに、私のいいたいことを言い当ててしまった。
「切符、なくしちゃったんでしょ?心配性だなー、大丈夫だってそんなのー!」
言って、お姉さんはいきなり私の腰を両手で持った。今度は私が「えっ」と言う間もなく、そのまま一気に「持ち上げた」。

私の周りの景色が一瞬で流れ、まるで重力が逆方向からかかったかのように体がふわっと浮いた。私はそのお姉さんに、持ち上げられた……みたい。私もあんまり成長が早いほうではないけれど、そんなに軽くないというのは自分だって分かっている。多分今パパに「肩車して」なんていっても、絶対にしてくれないだろう。というより、できないと思う。
でもこのお姉さんは、いとも簡単にそれをやってのけた。私がびっくりしてお姉さんを見ると、お姉さんもこちらを見てまた笑った。
そして、
「駅員さーーーん!ここに切符なくしちゃった子がいるよーーーーっ!たーすけてあーげてー!」
駅構内に響き渡るような大声で、その言葉を叫んだのだった。私は声の大きさにびっくりして、それ以上に、そのお姉さんの行動にびっくりする。
お姉さんは私を床に降ろして、大丈夫?と声をかけてきてくれた。私は手のひらに「だ」と、書いて、頭の中で反芻してから頭をさげて、感謝の気持ちを伝える。
「だ、いじょーぶです。……あり、ありがとうございました」
「おーえらい!ちゃんと言えたね!」
お姉さんはまた私の頭を撫でた。ディアナは痛そうにしているけれど、私は少しなつかしく感じる。
「あ、あの、どうして……切符だって……」
私がそう聞くと、お姉さんは両腕を腰にあてて答えた。
「私はエスパーなのだ!」
「え、ええっ!」
(そんなわけないでしょう、天理)
「そんなわけないでしょー、突っ込んでよー」
お姉さんは眉をひそめた。
「ま、ネタバレしちゃうとね……私にも、あなたみたいな妹がいるのよ。なんかはっきりしなくてさー、物事言うたびに顔赤くしてんの。すぐ泣くし!で、あいつなら何を言いたがってんのかなー……なんて思ったら、切符かなって感じて。フィーリングでね。き、きっ、って言ってたし!」

妹……さん?
私はお姉さんを改めてよく見る。お姉さんはキャリーバッグのようなものを持っていて、旅行でどこかから来ているかのようだった。
えーと、こういうときは……。
(お旅行ですか、ですよ、天理)
「お旅行……ですか?」
ディアナの援助を受けて私がそう聞くと、お姉さんはふてくされたような顔をした。思い出したくないことを思い出した感じで、私は少し不安になる。
「ううん、いえで……じゃなくて、一人立ち!」
「一人立ち?」
「私はこの町に住んでてさ、ずっと実家で過ごしてたんだけど……いろんなものにしばられてばっかりで、もう嫌になったってわけ。可能性を自分から殺したくはないから、もういっそ一人でやりたいことやろう!と思って」
(す、すごい実行力ですね……)
ディアナが感嘆しているように、私も同じことを感じた。この人は「求めている」。今よりもっといいものを、今よりもっといいところを求め続けている。きっと私とは、正反対の場所にいる人なのかもしれない。
「卒業式の日にサヨナラ宣言して、ずっと友達の家にいたんだけどさー。町とか、過去とか、そういうのに依存するのもヤでしょ?だから今日一念発起して、東京の方に出ようと思ったんだ。上を目指さないとね。私のためにも、そんで、妹のためにも……」
お姉さんはそう言って、遠くを見つめた。これから捨てる過去を懐かしく思っているのか、それともこれから抱く未来に不安を感じているのかは分からなかった。でも私は、それほど気にはならなかった。この人ならきっとなにがあってもくぐり抜けていけると思ったから。
「あ、駅員さん、こっちこっち!」
お姉さんが手招きをして、駅員さんがこちらに向かっている。お姉さんは私をもう一度見つめ、最後に大きく笑った。
「じゃあね、がんばって。大きくなりなよ~リトルガール!」
お姉さんはそのまま、すぐに歩き始めてしまった。背中がどんどん小さくなる。
「天理!お礼ですよ!」
「う、うん、あ、ありがとうございました……!」
言って私は頭を下げる。お姉さんは立ち止まらず、聞こえなかったかなと思ったけれど、その人は背中を向けたまま手を振ってくれた。
「すごい人でしたね……」
うん。私も、がんばるよ。

そのお姉さんには確実に、人を魅了する力があったと思う。おかげで私は、来てくれた駅員さんにしっかりと事情を説明することができた。
きっとあの人の妹さんも、あのお姉さんがいる限り、強くなっていけると思う。


そうして私とディアナは、駅から抜けることができた。
近くに海があるので、外に出るとより強く潮の香りを感じる。日差しも強くて、気分もすがすがしい。
あのお姉さん、がんばってほしいね。
「そうですね。でもあの人なら、ほとんど心配はいらないと思いますが……なにかお礼をすればよかったですかね」
そうだねー。名前くらい聞いておけばよかったかな。
「ここは私の力の見せ所でしょう。あの人の妹さんに、私の神通力でパワーを、エネルギーを捧げます!」
……え、そんなことできるの……?
「~~~~~、ふっ!」
…………。
「できましたよ……!」
鏡越しに、ディアナはにやりと笑う。
何をしたの?
「あの人の妹さんに何かあっても大丈夫なように、体を強くする風力を授けてあげました。伸び幅が違いますよ!妹さんがしっかりと体を鍛えれば、一蹴りで人体を破壊できるくらいの力量を備えることができるでしょう」
それはさすがに怖いなぁ。そんな人、滅多にいないよ?私は心の中では、正直を言うとディアナにそんな力はないよね……と思っていた。
「聞こえていますよ、天理」
え、えーと、それで、この後どうするんだっけ……。
「とぼけないでください。……桂木桂馬の家に向かうんです!住所はお母様から預かっていますから、あとはここに向かうだけです」
でも、住所だけだと行き方がわかんないよ……?ま、また誰かに聞く?
「誰かに聞いて、そこまで案内してもらうなんて天理にはさすがに無理ですし、私も誰かにそこまで迷惑をかけたくありません。だからここは、聞いても困らない人に聞きましょう」
……よくわかんないよ、どういう意味、ディアナ?
駅のガラスに映ったディアナは、目線で私の右上の位置を指し示した。私も同じ方向を向くと、一つの看板が見える。
そこにはよく分かる大きな文字で、こう書かれていた。
『舞島図書館』
……なるほど、地図に聞くんだね。
「図書館に行きましょう!」

私はまた一歩歩き始める。


-----第二話へつづく-----

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◆ 無題
拝見しました!
天理ディアナより檜が目立っているような感じでしたが面白いです。
こうして見ると中卒で家出って檜凄いな……
次は図書館ということで何だか長編になりそうな予感ですね。頑張って下さい!
DHA 2010/12/19(Sun)22:49:36 編集
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