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TINAMI
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神のみぞ知るセカイを人生の主軸、少年サンデーとアニメを人生の原動力としている人。
絵やSSもたまに書きますが、これは人生の潤滑油です。つまり、よくスベる。
ご意見・ご要望があれば studiotrefle0510☆gmail.com の方まで、☆を@に変換してお気軽にどうぞ。
鮎川天理さんからの求婚もお待ちしています。
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ルキノさんとの合同神のみSS、その第8話です。鳥羽瑠乃攻略もそろそろ佳境ということで、ルキノさん渾身の出来となっております!ぜひ、気軽に読んでいただけると嬉しいです……どうぞよろしくお願いします。
(これ以前の回はこちらから)
(これ以前の回はこちらから)
1
「あ………」
出会いなんて、本当に些細だった。
どこかの店頭でやっていたゲームのムービーが目に止まった、そんな程度の些細な出会い。でも、私はその世界に惹かれた。
かわいい女の子たちが生き生きとした表情で笑っていて、みんな輝いていた。私にはまぶしいくらいに。
本当にそんな些細な出会い。
でも、私はその出会いに救われた。
そして、音々がいないつらい日も生きてこれた―――。
***
「瑠乃さんと桂木さんは確かに同じゲーマーです。しかし、一つだけ決定的な違いがあります」
「………」
その言葉に瑠乃は何も答えない。何を思っているのだろうか……。
ディアナはその沈黙が続きを促すものと判断して、続きの言葉を言う。
「桂木さん風の言葉で言うなら、瑠乃さんはリアルにつながりを求めているのではないですか? そして、それは鈴鹿音々さん」
「………………………そう、だね」
視力を失った瑠乃は上半身を起こした体勢のまま、そのディアナの言葉を肯定した。
「私は男の子と話せないダメな子で、音々がいてくれないと生きてこれなかったんだ……」
瑠乃がそう呟いた後、辺りは沈黙に支配された。ディアナが何も言えずにいると、その沈黙を瑠乃の言葉が破った。
「天理がそこまで私を分かってくれていたなんて、本当に嬉しい。だから………聞いて欲しいの」
瑠乃の表情はいつもと変わらない。
変わらないだけに彼女が何を思っているかをディアナは推し量ることはできない。そして、瑠乃が言う。
「私のことを―――」
2
「瑠乃と初めて出会ったのは小学生の時でした」
一方、音楽ホールでは桂馬と音々が舞台のへりに並んで座っていた。そして、音々はそう物語を切り出した。
「小学生の頃……ずいぶん長い付き合いなんだな」
「そうですね」
音々は静かにそれを肯定する。しかし、その次の言葉は桂馬にとって意外なものだった。
「けど、あの頃のことは瑠乃もきっと思い出したくないでしょうね」
「………?」
その言葉に桂馬は疑問を覚える。そして、それは音々にも伝わったのだろう。彼女の表情に緊張が浮かぶのが見えた。きっとその次に紡がれる言葉は音々にとっても、彼女の一番の親友である瑠乃にとっても最も重みがある言葉なのだろう。
音々の表情にはただただ哀しみが浮かぶ。
そして、その言葉が紡がれた。
「瑠乃はその頃、イジメられていたのです……」
***
「天理には話したことなかった………よね、私が男の子を苦手な理由…」
瑠乃の声が震えていることにディアナは気づいた。これから話すことに彼女が忘れることのない恐怖を抱いている、聞いたら誰にでもそう感じさせるそれだった。
そうだろう。誰であっても、トラウマと向き合うというのは何よりもつらいことなのだ……。
「私が小学生の頃、私は………その………その…」
「いいのですよ、瑠乃さん」
瑠乃が躊躇う様子を見て、ディアナは瑠乃を優しく抱きしめた。
「ふぁ…ぁ………て、天理……?」
「ごめんなさい、瑠乃さん。………無理に話す必要はないのです。あなたが話さなくても誰も責めません」
そのディアナの言葉は慈愛に満ちている。まさに女神としてのそれだ。
しかし、瑠乃は抱きしめられながらふるふると首を振った。
「だ、ダメだよ……」
「瑠乃さん………?」
ディアナがすっと抱擁を解く。
そして、瑠乃は恐る恐る一つずつの言葉を発する。まるでそれは自分自身が確かめるかのように、自らに言い聞かせるかのように……。
「私はずっとこれと向き合うことを恐れてた………うぅん、逃げてたって言ってもいいかもしれない。だから、きっと世界が見えなくなっちゃったんだ……」
瑠乃はそう言って自らの眼に指を当てる。
そして、そう言う彼女の表情はどこか寂しげで、見ているディアナは切なさを覚えるのだった―――。
3
「瑠乃が受けていたものは聞く人が聞いたなら、くだらなく軽いものだったと思うかもしれません。けど、瑠乃にとってはつらいことで……。そうだったけど、瑠乃は我慢に我慢をして……そして、深く傷つきました。今日まで男の子と話せなくなるくらいに」
「それが瑠乃の男性恐怖症の根源的理由……か」
「そうなのだと私は思います」
彼女の言葉にはどこか苦しさが込められているようにも思えた。
それは何に対する思いなのだろうか……。
音々は一呼吸置くと、改めて話す。
「私は初めて会った時から瑠乃のことが気になっていました。できたら友達になりたい、そんな風に思ってました。けど、こう何と言うか……自分から声をかける勇気は持てずにいたんです」
「そうなのか」
「そうです……」
音々は苦しそうな表情でそれを認める。
もしもっと早く音々が瑠乃に声をかけていたら、何か変わっていたかもしれない。それを考えると、いやそう音々が考えてしまっているならばその胸中は察して余りある。
「そんな頃、瑠乃はすでにイジメられて……いや、正確に言います。男子たちにからかわれていたんです。私はそんな子たちを許せなかった。そこである日間に割って入りました」
「それが音々と瑠乃の出会いのきっかけか?」
「そう…………なります」
音々はその問いに頷く。
「それは分かった。………だが、どうして周りは瑠乃をイジメていたんだ?」
音々が瑠乃を守るためにからかっている子たちとの間に入り、二人の交流が始まったのであろうことは想像に難くない。しかしながら、そもそもどうして瑠乃がそのようなことに遭ったのかというのはいまいち合点がいかない。
そんな風に考えると、桂馬の疑問は当然と言えば当然と言えよう。しかし、それに対しての音々の反応は全く予想外のものだった。
「そ、それは………」
そう聞いて音々の方を見てきた桂馬に、音々は思わず目を逸らした。
よく見ると心なしか頬も赤い気ように見える。
「…………?」
「べ、別にいいんですっ! それは関係ないんですからッ!」
桂馬の疑問に対して、そう答える音々。
しかし、その脳裏には口にしないだけでその頃の光景が鮮やかに浮かんでいるのだった――。
***
「るのちゃん、このたまご焼きたべる?」
「う、うん……」
それは瑠乃も音々も小学生だった頃。ある日のお昼休みに、二人の姿はとある小学校の屋上にあった。
そこは二人だけが知る秘密の隠れ家、誰にも邪魔されることがない二人だけの世界。二人はいつもそこでお昼ご飯を食べていた。教室にいても、誰かが瑠乃のことをからかってくるのだ。それならばいっそ誰もいない方がいい。
「おいしい……?」
「うん! ねねちゃんの家のお弁当はいつもおいしいよ!」
瑠乃が笑顔でそう答える。
それは見るものの気持ちを安らかにするような輝く笑顔。
「ありがと!」
あたしはそう答え、何気なく空を見上げた。
当たり前だけど、空は青くて。そして、雲は白い。
緩やかに世界が流れているように思えてしまう。
世界は平和なの……?
そんなことを考えて、あたしは隣に座るるのちゃんを見た。
こんなにも小さくて、可愛いるのちゃん……。
けれど、大人びている部分もあってあたしはうらやましい。
だからこそ、あたしはどうしても考えてしまう。
るのちゃんはこんなに素敵なのにどうして皆イジメるの――?
幼いその時の私には、どうしても分からなかった。
***
(瑠乃、あなたまさか……!)
けれども、いまの鈴鹿音々は一つのことを悟る。
彼女にとって確証はないけれども、それは簡単なことだった。理解が可能だったと言い換えてもいい。むしろ、どうして気づけなかったのだろう……。
『音々。瑠乃がゴスロリを身にまとうようになったり、ゲームをするようになったのにも理由があるんじゃないのか? なのに、どうしてそれを考えようとしない? なぜ頭ごなしに否定する?』
桂馬が先ほど言った言葉が脳裏に浮かび、思わずクラッとする……。
鳥羽瑠乃がゴスロリの服を身にまとう理由―――。
言うとおりだ。
理由を考えてなんてなかった。
瑠乃のことを理解した気に一方的になっていて、瑠乃の気持ちを考えてなかった……。
頭ごなしに瑠乃のこと否定してた――――。
「バカだ、私……」
「どうした……?」
音々の呟きに対して、桂馬が尋ねる。
「わ、私………わたし……」
音々はそう言って、桂馬の両肩を掴む。桂馬がどうしたのかと音々の顔を向いた。そして、目を見開いた。
桂馬が見た音々の表情は本当に今にも泣きそうだったからだ。
「お願いッ、瑠乃に会わせて! わ、私はる、瑠乃に……………謝らないと……だから、だからッ………」
「………………分かった」
桂馬は数秒考えた後、そう答えるのだった――。
4
「………………私は」
しばらく静寂に包まれていた瑠乃の部屋。
その重く哀しい静寂を再び破ったのは、瑠乃。
彼女は覚悟を決めて、自らの心を紐解く。
「私は……………………小学生のときから、ほかの女の子たちに比べてむ………胸が大きかったの。それがコンプレックスだった……」
「……………」
「それで男の子たちからよくからかわれてた……んだ」
「瑠乃さん……」
「それが………理由」
瑠乃はそう言って、自分の胸元をぎゅと抱いた。
「瑠乃さん……」
ディアナはそんな彼女を見て、呟いた。
「く、くだらないよね………こんなの……」
そう言って、瑠乃が浮かべた笑顔は本当に弱々しくて苦しそうで……。
女神であるディアナでさえも何と言葉をかけたらいいのか分からなかった………。
「でもね、音々がいてくれたからつらくなかった。音々はいつも私と一緒にいて、私のことを守ってくれた」
それが桂馬の言うところの瑠乃と音々の〝つながり〟なのだろう。
瑠乃と音々のつながり………。
「それが瑠乃さんと音々さんとの……」
「そう、出会い……かな。けどね………音々は中学生になると、音楽のことで段々忙しくなって学校に来なくなったの」
「それで、瑠乃さんは……」
「そう………だね」
瑠乃はディアナが言わんとしていることを察して、それを肯定した。
「音々がいない日が多くなって、そんな風にどんどん月日が流れて行って……、私はどうしたらいいか分からなくなってたんだ。音々がいてくれたから、私は生きてこれたのに、その音々がいない。それでどうしたらいいか分からなくて……。そんなある日、当てもなく街を歩いてた……」
「そして、出会ったんですね?」
「…………うん」
そして、鳥羽瑠乃は出会ったのだ、ゲームの世界に。
「ゲームを決して知らなかったわけじゃないけど、こういうゲームの世界もあるんだってびっくりした。女の子たちが生き生きと描かれてて、皆輝いてた」
それは瑠乃にとってどれだけの衝撃だったのだろう……。
ほんの些細でちっぽけかもしれないけれど、瑠乃にとってはそれがすべてだった。
そして、それで瑠乃は救われてきた。
「でも、一方で瑠乃さんは決して現実を拒絶しきったわけではなかったのですね。今でも覚えてます、瑠乃さんと初めて出会った日のこと――」
「そう……、音々とだけは何があっても別れるなんてことできなかった。音々とだけはつながっていたかった。だから、音々の前でだけはゴスロリもゲームも隠していたの」
その言葉にディアナは閃くものがあった。
いや、ピタリとはまるものがあったと言ってもいいかもしれない。
それをディアナは尋ねる。
「瑠乃さん。音々さんにそれらが見つかったんですか……?」
「………………………うん」
ちょっと間を開けて、瑠乃はそれを認めた。
「けど。音々は理解してくれなくて、怒られて……」
そう言う瑠乃の表情は、本当に悲しそうで寂しげだった。
鳥羽瑠乃が唯一つながりを求めた少女、鈴鹿音々。
瑠乃がその彼女に拒絶された衝撃はどれくらいだったのだろう。
もしそれを言葉にするなら、セカイが失われてしまうくらい。
そんな風に言えるのかもしれない……。
「瑠乃さん……本当にありがとうございました。何よりもつらいことなのに、私に話してくださって」
ディアナがそう言うと、瑠乃はプルプルと横に首を振った。
「うぅん、天理に聞いてもらえて本当によかった。誰にも話したことなかったけど、うぅん……だからこそ、天理に聞いてもらえて本当に本当によかったと思う。こっちこそありがとうだよ、天理」
5
「桂木、遅いなぁ……」
そこは桂馬と音々が話しているホールのある建物からちょっと離れた場所にあるベンチに、ハクアの姿はそこにあった。ちゃんとホールの入口を視界に捉えつつ、彼女はそうぼやく。
「桂木、大丈夫なのかしら……」
聞くところによると、鈴鹿音々は桂木のような人種に決していい印象を抱いてないらしい。となると、桂木が色々と言われてノックアウトされているなんてこともあり得なくはない話だ。
ただ………。
(桂木が他人に何か言われてヘコむなんて………ちょっと想像つかない気もするわね)
桂馬がヘコむ姿………実際には何度かあったわけだが、ハクアにとってはあまりイメージできない姿。それを思うと何だか笑えてきた。
「って、桂木―――!!」
そんなことを思って和んでいるそんな最中、桂馬がホールの建物の入口から出てきた。鈴鹿音々を連れて。
「あれは鈴鹿音々? どうなってるのよ、まったく!」
本当に独断専行だ―――そんなことを思いながら立ち上がろうとした時、本当に一瞬だけ桂馬と目があった。
そして、それでハクアはすべてを察する。
「はぁ………」
桂馬たちが去った後、ハクアは一度だけ溜め息を吐いた。
少しだけ、ほんの少しだけあれだけですべてを察せてしまった自分が憎かった。
「そんなこと行っててもしょうがないわね」
ハクアはそう言うと羽衣を身にまとって、上空へと飛び上がるのだった―――。
「あ………」
出会いなんて、本当に些細だった。
どこかの店頭でやっていたゲームのムービーが目に止まった、そんな程度の些細な出会い。でも、私はその世界に惹かれた。
かわいい女の子たちが生き生きとした表情で笑っていて、みんな輝いていた。私にはまぶしいくらいに。
本当にそんな些細な出会い。
でも、私はその出会いに救われた。
そして、音々がいないつらい日も生きてこれた―――。
***
「瑠乃さんと桂木さんは確かに同じゲーマーです。しかし、一つだけ決定的な違いがあります」
「………」
その言葉に瑠乃は何も答えない。何を思っているのだろうか……。
ディアナはその沈黙が続きを促すものと判断して、続きの言葉を言う。
「桂木さん風の言葉で言うなら、瑠乃さんはリアルにつながりを求めているのではないですか? そして、それは鈴鹿音々さん」
「………………………そう、だね」
視力を失った瑠乃は上半身を起こした体勢のまま、そのディアナの言葉を肯定した。
「私は男の子と話せないダメな子で、音々がいてくれないと生きてこれなかったんだ……」
瑠乃がそう呟いた後、辺りは沈黙に支配された。ディアナが何も言えずにいると、その沈黙を瑠乃の言葉が破った。
「天理がそこまで私を分かってくれていたなんて、本当に嬉しい。だから………聞いて欲しいの」
瑠乃の表情はいつもと変わらない。
変わらないだけに彼女が何を思っているかをディアナは推し量ることはできない。そして、瑠乃が言う。
「私のことを―――」
2
「瑠乃と初めて出会ったのは小学生の時でした」
一方、音楽ホールでは桂馬と音々が舞台のへりに並んで座っていた。そして、音々はそう物語を切り出した。
「小学生の頃……ずいぶん長い付き合いなんだな」
「そうですね」
音々は静かにそれを肯定する。しかし、その次の言葉は桂馬にとって意外なものだった。
「けど、あの頃のことは瑠乃もきっと思い出したくないでしょうね」
「………?」
その言葉に桂馬は疑問を覚える。そして、それは音々にも伝わったのだろう。彼女の表情に緊張が浮かぶのが見えた。きっとその次に紡がれる言葉は音々にとっても、彼女の一番の親友である瑠乃にとっても最も重みがある言葉なのだろう。
音々の表情にはただただ哀しみが浮かぶ。
そして、その言葉が紡がれた。
「瑠乃はその頃、イジメられていたのです……」
***
「天理には話したことなかった………よね、私が男の子を苦手な理由…」
瑠乃の声が震えていることにディアナは気づいた。これから話すことに彼女が忘れることのない恐怖を抱いている、聞いたら誰にでもそう感じさせるそれだった。
そうだろう。誰であっても、トラウマと向き合うというのは何よりもつらいことなのだ……。
「私が小学生の頃、私は………その………その…」
「いいのですよ、瑠乃さん」
瑠乃が躊躇う様子を見て、ディアナは瑠乃を優しく抱きしめた。
「ふぁ…ぁ………て、天理……?」
「ごめんなさい、瑠乃さん。………無理に話す必要はないのです。あなたが話さなくても誰も責めません」
そのディアナの言葉は慈愛に満ちている。まさに女神としてのそれだ。
しかし、瑠乃は抱きしめられながらふるふると首を振った。
「だ、ダメだよ……」
「瑠乃さん………?」
ディアナがすっと抱擁を解く。
そして、瑠乃は恐る恐る一つずつの言葉を発する。まるでそれは自分自身が確かめるかのように、自らに言い聞かせるかのように……。
「私はずっとこれと向き合うことを恐れてた………うぅん、逃げてたって言ってもいいかもしれない。だから、きっと世界が見えなくなっちゃったんだ……」
瑠乃はそう言って自らの眼に指を当てる。
そして、そう言う彼女の表情はどこか寂しげで、見ているディアナは切なさを覚えるのだった―――。
3
「瑠乃が受けていたものは聞く人が聞いたなら、くだらなく軽いものだったと思うかもしれません。けど、瑠乃にとってはつらいことで……。そうだったけど、瑠乃は我慢に我慢をして……そして、深く傷つきました。今日まで男の子と話せなくなるくらいに」
「それが瑠乃の男性恐怖症の根源的理由……か」
「そうなのだと私は思います」
彼女の言葉にはどこか苦しさが込められているようにも思えた。
それは何に対する思いなのだろうか……。
音々は一呼吸置くと、改めて話す。
「私は初めて会った時から瑠乃のことが気になっていました。できたら友達になりたい、そんな風に思ってました。けど、こう何と言うか……自分から声をかける勇気は持てずにいたんです」
「そうなのか」
「そうです……」
音々は苦しそうな表情でそれを認める。
もしもっと早く音々が瑠乃に声をかけていたら、何か変わっていたかもしれない。それを考えると、いやそう音々が考えてしまっているならばその胸中は察して余りある。
「そんな頃、瑠乃はすでにイジメられて……いや、正確に言います。男子たちにからかわれていたんです。私はそんな子たちを許せなかった。そこである日間に割って入りました」
「それが音々と瑠乃の出会いのきっかけか?」
「そう…………なります」
音々はその問いに頷く。
「それは分かった。………だが、どうして周りは瑠乃をイジメていたんだ?」
音々が瑠乃を守るためにからかっている子たちとの間に入り、二人の交流が始まったのであろうことは想像に難くない。しかしながら、そもそもどうして瑠乃がそのようなことに遭ったのかというのはいまいち合点がいかない。
そんな風に考えると、桂馬の疑問は当然と言えば当然と言えよう。しかし、それに対しての音々の反応は全く予想外のものだった。
「そ、それは………」
そう聞いて音々の方を見てきた桂馬に、音々は思わず目を逸らした。
よく見ると心なしか頬も赤い気ように見える。
「…………?」
「べ、別にいいんですっ! それは関係ないんですからッ!」
桂馬の疑問に対して、そう答える音々。
しかし、その脳裏には口にしないだけでその頃の光景が鮮やかに浮かんでいるのだった――。
***
「るのちゃん、このたまご焼きたべる?」
「う、うん……」
それは瑠乃も音々も小学生だった頃。ある日のお昼休みに、二人の姿はとある小学校の屋上にあった。
そこは二人だけが知る秘密の隠れ家、誰にも邪魔されることがない二人だけの世界。二人はいつもそこでお昼ご飯を食べていた。教室にいても、誰かが瑠乃のことをからかってくるのだ。それならばいっそ誰もいない方がいい。
「おいしい……?」
「うん! ねねちゃんの家のお弁当はいつもおいしいよ!」
瑠乃が笑顔でそう答える。
それは見るものの気持ちを安らかにするような輝く笑顔。
「ありがと!」
あたしはそう答え、何気なく空を見上げた。
当たり前だけど、空は青くて。そして、雲は白い。
緩やかに世界が流れているように思えてしまう。
世界は平和なの……?
そんなことを考えて、あたしは隣に座るるのちゃんを見た。
こんなにも小さくて、可愛いるのちゃん……。
けれど、大人びている部分もあってあたしはうらやましい。
だからこそ、あたしはどうしても考えてしまう。
るのちゃんはこんなに素敵なのにどうして皆イジメるの――?
幼いその時の私には、どうしても分からなかった。
***
(瑠乃、あなたまさか……!)
けれども、いまの鈴鹿音々は一つのことを悟る。
彼女にとって確証はないけれども、それは簡単なことだった。理解が可能だったと言い換えてもいい。むしろ、どうして気づけなかったのだろう……。
『音々。瑠乃がゴスロリを身にまとうようになったり、ゲームをするようになったのにも理由があるんじゃないのか? なのに、どうしてそれを考えようとしない? なぜ頭ごなしに否定する?』
桂馬が先ほど言った言葉が脳裏に浮かび、思わずクラッとする……。
鳥羽瑠乃がゴスロリの服を身にまとう理由―――。
言うとおりだ。
理由を考えてなんてなかった。
瑠乃のことを理解した気に一方的になっていて、瑠乃の気持ちを考えてなかった……。
頭ごなしに瑠乃のこと否定してた――――。
「バカだ、私……」
「どうした……?」
音々の呟きに対して、桂馬が尋ねる。
「わ、私………わたし……」
音々はそう言って、桂馬の両肩を掴む。桂馬がどうしたのかと音々の顔を向いた。そして、目を見開いた。
桂馬が見た音々の表情は本当に今にも泣きそうだったからだ。
「お願いッ、瑠乃に会わせて! わ、私はる、瑠乃に……………謝らないと……だから、だからッ………」
「………………分かった」
桂馬は数秒考えた後、そう答えるのだった――。
4
「………………私は」
しばらく静寂に包まれていた瑠乃の部屋。
その重く哀しい静寂を再び破ったのは、瑠乃。
彼女は覚悟を決めて、自らの心を紐解く。
「私は……………………小学生のときから、ほかの女の子たちに比べてむ………胸が大きかったの。それがコンプレックスだった……」
「……………」
「それで男の子たちからよくからかわれてた……んだ」
「瑠乃さん……」
「それが………理由」
瑠乃はそう言って、自分の胸元をぎゅと抱いた。
「瑠乃さん……」
ディアナはそんな彼女を見て、呟いた。
「く、くだらないよね………こんなの……」
そう言って、瑠乃が浮かべた笑顔は本当に弱々しくて苦しそうで……。
女神であるディアナでさえも何と言葉をかけたらいいのか分からなかった………。
「でもね、音々がいてくれたからつらくなかった。音々はいつも私と一緒にいて、私のことを守ってくれた」
それが桂馬の言うところの瑠乃と音々の〝つながり〟なのだろう。
瑠乃と音々のつながり………。
「それが瑠乃さんと音々さんとの……」
「そう、出会い……かな。けどね………音々は中学生になると、音楽のことで段々忙しくなって学校に来なくなったの」
「それで、瑠乃さんは……」
「そう………だね」
瑠乃はディアナが言わんとしていることを察して、それを肯定した。
「音々がいない日が多くなって、そんな風にどんどん月日が流れて行って……、私はどうしたらいいか分からなくなってたんだ。音々がいてくれたから、私は生きてこれたのに、その音々がいない。それでどうしたらいいか分からなくて……。そんなある日、当てもなく街を歩いてた……」
「そして、出会ったんですね?」
「…………うん」
そして、鳥羽瑠乃は出会ったのだ、ゲームの世界に。
「ゲームを決して知らなかったわけじゃないけど、こういうゲームの世界もあるんだってびっくりした。女の子たちが生き生きと描かれてて、皆輝いてた」
それは瑠乃にとってどれだけの衝撃だったのだろう……。
ほんの些細でちっぽけかもしれないけれど、瑠乃にとってはそれがすべてだった。
そして、それで瑠乃は救われてきた。
「でも、一方で瑠乃さんは決して現実を拒絶しきったわけではなかったのですね。今でも覚えてます、瑠乃さんと初めて出会った日のこと――」
「そう……、音々とだけは何があっても別れるなんてことできなかった。音々とだけはつながっていたかった。だから、音々の前でだけはゴスロリもゲームも隠していたの」
その言葉にディアナは閃くものがあった。
いや、ピタリとはまるものがあったと言ってもいいかもしれない。
それをディアナは尋ねる。
「瑠乃さん。音々さんにそれらが見つかったんですか……?」
「………………………うん」
ちょっと間を開けて、瑠乃はそれを認めた。
「けど。音々は理解してくれなくて、怒られて……」
そう言う瑠乃の表情は、本当に悲しそうで寂しげだった。
鳥羽瑠乃が唯一つながりを求めた少女、鈴鹿音々。
瑠乃がその彼女に拒絶された衝撃はどれくらいだったのだろう。
もしそれを言葉にするなら、セカイが失われてしまうくらい。
そんな風に言えるのかもしれない……。
「瑠乃さん……本当にありがとうございました。何よりもつらいことなのに、私に話してくださって」
ディアナがそう言うと、瑠乃はプルプルと横に首を振った。
「うぅん、天理に聞いてもらえて本当によかった。誰にも話したことなかったけど、うぅん……だからこそ、天理に聞いてもらえて本当に本当によかったと思う。こっちこそありがとうだよ、天理」
5
「桂木、遅いなぁ……」
そこは桂馬と音々が話しているホールのある建物からちょっと離れた場所にあるベンチに、ハクアの姿はそこにあった。ちゃんとホールの入口を視界に捉えつつ、彼女はそうぼやく。
「桂木、大丈夫なのかしら……」
聞くところによると、鈴鹿音々は桂木のような人種に決していい印象を抱いてないらしい。となると、桂木が色々と言われてノックアウトされているなんてこともあり得なくはない話だ。
ただ………。
(桂木が他人に何か言われてヘコむなんて………ちょっと想像つかない気もするわね)
桂馬がヘコむ姿………実際には何度かあったわけだが、ハクアにとってはあまりイメージできない姿。それを思うと何だか笑えてきた。
「って、桂木―――!!」
そんなことを思って和んでいるそんな最中、桂馬がホールの建物の入口から出てきた。鈴鹿音々を連れて。
「あれは鈴鹿音々? どうなってるのよ、まったく!」
本当に独断専行だ―――そんなことを思いながら立ち上がろうとした時、本当に一瞬だけ桂馬と目があった。
そして、それでハクアはすべてを察する。
「はぁ………」
桂馬たちが去った後、ハクアは一度だけ溜め息を吐いた。
少しだけ、ほんの少しだけあれだけですべてを察せてしまった自分が憎かった。
「そんなこと行っててもしょうがないわね」
ハクアはそう言うと羽衣を身にまとって、上空へと飛び上がるのだった―――。
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